和歌山県すさみ町長 岩田 勉
昭和24年8月、代々続く漁師の家に生まれ、小学生のころから父親と一緒に船に乗り漁師のまね事をしながら育った私は、当時の世情からすれば中学校卒業後は、父親の跡を継ぎカツオ釣りの漁師になることが当然の人生であると思っていました。
昭和30年代から40年代には近くの漁場でカツオやマグロなど小さな漁船でも充分漁ができた良き時代でありました。
特にカツオ漁は2月から5月までが最盛期で、300隻余りの漁船が毎日カツオで満船し市場がカツオで埋め尽くされるような日が続いたものでした。
すさみ沖が漁閑期となる9月から12月には西は四国や九州、東は静岡県・千葉県や青森県まで出漁し、明治時代からすさみ町や串本町で行われていたカツオやマグロの引縄漁(ケンケン漁)を各地に広めていきました。
しかし、無尽蔵とも思われていた沿岸カツオの漁獲量が二十数年前から減少し始め、数年前からはブランド化したケンケン鰹の水揚げが激減しました。
2018年3月には先人達と交流のあった、鹿児島県枕崎市・日南市、高知県土佐清水市・黒潮町・中土佐町、徳島県海陽町、千葉県勝浦市とそれぞれの漁業関係団体と共催し、カツオ漁がもたらした恵みや歴史文化を再認識するとともに、漁獲量が減少した深刻な現況を全国に発信し資源を守る大切さを確認する機会として「カツオとともに生きる地域未来づくり」をテーマに「全国カツオまつりサミットinすさみ」を開催しました。
地場産業の衰退による人口減少をはじめとする諸課題への対策は、小さな自治体単独では対応しきれない状況にまでなっています。
将来に向け広域行政による効率的な行政運営に取り組んでいかなければならないとの思いは多くの方々と共有できることと思います。
さて、すさみ町は紀伊半島南端近くに位置し174㎢の中に約3900人が暮らす小さな町であります。
気候は太平洋の影響により、年間を通して暮らすのに適した温暖な町であります。
産業では先に紹介をした通り、ケンケン鰹漁を中心とした漁業や日本で最初にレタスを栽培した農業、町の面積の90%を占める森林を活かした林業が町の経済を支えてきました。
現在は自然を活用した体験を楽しむ来町者が多くなり、サイクリングや冬のキャンプ、シーカヤックなどの観光に関係する産業が中心となっています。
また、「道の駅すさみ」には年間百万人余りの来場者があり、冬になると太平洋に沈む大きな夕日を撮影する姿や、拍手をする姿も見られます。
町民にとって夕日が海に沈む光景はごく普通の、日常の暮らしの一部であり、私たちが今まで気付くことなく当たり前と思って見過ごしていたことが、かけがえのない資産になる可能性があることに気付かされた出来事であります。
これからの町づくりにとって、先人から受け継いだ町の歴史・文化・自然を、町を訪れる方々と共有することが重要であり、できれば伝統文化を一緒に伝承していけるようなことになればと思っています。
また、町民が生まれ育った郷土に誇りを持ち、心豊かに日々の暮らしができる町づくりを目指したいと常々思っております。特に町村週報のコラムや現地レポートに掲載されている全国の先進的な取組事例は、将来に向けての町づくりにとって参考にさせていただける具体的な政策も多くあり、職員とのコミュニケーションの機会に利用させていただいています。
3100号では共にカツオ漁の町として「カツオまつりサミット」でご協力いただいた中土佐町が掲載されており、訪問させていただいた折に案内いただいた久礼港や大正町市場などが懐かしく、酒好きな私には土佐鶴の美味さもいい思い出であります。
恵まれた自然を活用し交流人口を増やす取組は、すさみ町の将来に向けて大切な政策であります。
今後も同じような行政課題や新たな政策に取り組まれる全国の仲間と一緒に活動できることを楽しみにしています。