熊本県高森町長 草村 大成
高森町は、宮崎県と大分県に隣接し熊本県の最東端に位置する人口6,400人の町です。世界有数の阿蘇五岳を中心としたカルデラの中に暮らす人々と火山との長い歴史のなか築きあげられた、広大な阿蘇の草原の景観は見る者を圧倒します。
また、豊富な湧水を活かした地酒や醤油、味噌をはじめとする食文化など、先人たちが培ってきた歴史や伝統文化を大切に守りながら、一方では、情報基盤を活かした最先端の政策にも取り組み、町長に就任してから9年目を迎えました。
その間、「九州北部豪雨災害」や「噴火による降灰被害」、「大雪による雪害」、なかでも忘れることのできない「熊本地震」という未曾有の災害にも見舞われる等、度重なる困難に直面いたしましたが、全国からお寄せいただいたご厚情やご支援に支えられ、復旧・復興に向かって着実に歩んでおります。皆さまに、改めまして心より感謝申し上げます。
しかしながら、熊本都市圏へ繋がる重要な公共交通機関の“南阿蘇鉄道”は大規模な被害を受け、依然、一部運休を余儀なくされています。2022年の完全復旧を目指し、全力で取り組んでいるところです。
さて、私は町政を預かる以前の平成22年までは民間企業の経営を行っておりました。その経験を活かし、“スピードは最大の付加価値を生む”の理念のもと、施策を明確に打ち出した今期で3冊目となる政策集を作成し、様々な事業を実践しています。一貫して、“人口減少を本格的に迎える局面であること”を念頭に置き、情報の共有に力を入れてきました。行政は、住民の方と情報の共有ができなければ、何の対策も打てませんし、実行もできません。そこで、全国でもあまり例のない、全世帯へのケーブルテレビとインターネット回線導入を実施し、近い将来スマートシティが実現可能となるような情報基盤整備を行ってきました。
町の放送局「TPC(たかもりポイントチャンネル)」では、民放と同じリモコンを使い、高齢者の方でも簡単な操作で地域密着番組を見ることができます。
TPCは、民間委託をせずに職員自らカメラをまわし、編集、完成まで全て職員の手作りで情報を発信しています。住民の方に、各課・局の担当職員の顔が見えるように、また、いかに情報を分かり易く伝えるかを、警察・消防・学校も含め、職員一人ひとりが常に心がけ伝えています。こういったことが、職員の資質向上、政策集団の形成にも繋がっています。全町民と情報の共有を図ることで、地域間の情報格差をなくし、将来的には自宅のテレビからの双方向化の実現を目指しています。
また、この情報基盤の整備によって、教育の現場では、平成24年から町内の全小中学校におけるICT(情報通信技術)教育、遠隔授業、プログラミング学習、早期英語教育、ふるさと学の一斉導入が実現し、都市部との情報環境格差の解消を図りました。人材育成を目的とした、この取組は全国的にも高い評価を得ています。また、熊本県立高森高校は、世界的なソフトウェア開発会社であるインテル社と県及び町教育委員会との三者による協定のもと、ICTの学習環境が充実しています。
これからの町を担う子どもたちが、町の施策を提案する機会として、毎年、中学3年生を対象に議場で「子ども議会」を開催しています。本町にある2校が、遠隔授業を通して、町の現状を真剣に学び、討論し、まとめ、当日は自ら作成したパワーポイントによる資料を使って、町を良くするための提案を発表します。町の執行部も、その提案を真摯に受け止め、良い提案は議会で予算化し、形にしています。こうしたことも、自分が育つ町のことを真剣に考え、ふるさとを愛する心を育んでいくことにつながると考えています。
急激な人口減少社会の到来により、当町にも厳しい状況が訪れることが予想されます。過疎に負けず、可能性溢れる未来に繋げていくために、これからのビジョンを明確に示し、将来の子どもたちに「誇れる高森町」を目指し続けます。