宮崎県日之影町長 佐藤 貢
日之影町には一つの神話が残されています。
神武天皇の兄、三毛入野命(みけいりのみこと)が乱暴者の鬼八(きはち)を退治しようと追い詰めていたところ、鬼八が大雨で川を増水させて逃げようとしたことにお怒りになり、天を仰いで天つ神に祈りをささげると、降りしきっていた雨が上がり雲間から日が差し、鬼八退治を成し遂げた、というものです。
雲間からの日差しを「日の影」と言い、この神話が町名の由来となっています。
日之影町は、宮崎県北部に位置し、人口3,700人、面積が277.67㎢の中山間地域です。東は水郷「延岡市」、西は神話の里「高千穂町」に接し、町の中心部を五ヶ瀬川が東西に貫流、その支流として日之影川が北部を東西に二分し、大小様々な河川により深いV字形の渓谷美を形成しています。
私は、大学を卒業した昭和55年、県外への就職が決まっていましたが、大学の大先輩である当時の町長の勧めもあり、日之影町に帰って来ました。
翌年4月に役場に入庁し、農林振興課長、企画開発課長、助役、副町長を務め、平成25年12月に町長に就任、現在5年目を迎えています。
本町の基幹産業は農林業です。
農業は水稲、畜産を基本に果樹、花卉、野菜、椎茸、葉たばこ等を組み合わせた複合経営が中心ですが、近年の担い手の高齢化や後継者不足による耕作放棄地の増加により、農業の衰退が心配されていました。その対策として、平成28年10月に町長が代表取締役を務める農業法人「ひのかげアグリファーム」を設立し、翌年4月にグランドオープンしました。
現在、水稲の基幹作業を中心に農地や樹園地の除草などの受託事業を伸ばしています。また、「ふるさと宮崎ワーキングホリデー」の受け入れを行うとともに、会社としての経営から自社による農作物の生産、販売にも力を入れています。
今後も、農家の多様なニーズに可能なかぎり対応しながら、農業、農村の持続的な発展に繋げていきたいと思っています。
林業については、町土の91%が森林で、うち71%が民有林、さらにその約7割が伐期を迎え、伐採や下刈り、再造林などの担い手不足が深刻な課題となっています。
森林組合や素材生産業者だけでは手が回らない状態ですが、来年度から始まる森林環境譲与税を活用しながら、長期的な林業施策の検討と森林の循環利用を目指し、人材の確保や自伐林家の育成にも取り組みたいと思っています。
今年4月下旬には、道の駅「青雲橋」が新たにリニューアルオープンします。新しい道の駅は規模を2倍に拡大し、農産物直売所やレストランのほかに、展望デッキや観光案内所を設け、本町が進める森林セラピー基地や世界ブランドの世界農業遺産、ユネスコエコパークとの連携を図りながら、日之影町観光の拠点として、情報発信の強化に期待しています。
また、平成28年4月の熊本地震を機に防災拠点施設としての庁舎の耐震化が課題となっていましたが、昨年6月に移転先を決定し、町民ホールを備え、図書館機能を充実した文化施設との複合施設として、2年後の完成を目指して取り組んでいます。
平成26年5月、日本創生会議から「2040年までに896の自治体が消滅する」と予測が発表され、本町も消滅可能性都市に挙げられました。
過疎化・高齢化や後継者不足などの課題には以前から取り組んできましたが、予測を覆すため様々な政策に取り組んでいます。最近では、移住者やUターン者が徐々に増えていることもあり、人口の自然減は進んでいるものの、社会動態での減少は小さくなってきました。
本町は小さな町ではありますが、112の集落が点在し、地域を守りながら神楽や農村歌舞伎、団七踊りなどの伝統芸能、竹細工やわら細工の工芸等も受け継がれています。
人口は少なくなっても、このような日之影町を誇りに思い、安心して子育てをし、健康で生きがいを持って暮らすことができる環境づくりが大切であると思います。
課題はまだまだありますが、独自の文化を守り育て、地域の繋がりを大切にしながら町民に寄り添った行政を進め、日之影に住む喜びが実感できるまちづくりを進めていきます。