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篠栗町に生まれて

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年2月25日

福岡篠栗町福岡県篠栗町長 三浦 正

●篠栗の町

九州、そしてアジアの玄関口である福岡市に隣接する糟屋郡(7町で構成)は、福岡市のベッドタウンとして、人口減少時代にあって今なお人口増加を経験している日本のなかでも数少ない地域です。その糟屋郡最東部に位置するのがわが町篠栗町で、町域39㎢のうち約7割を森林と山間地域が占める山里です。福岡市に隣接する他の町のように顕著な人口増加はみられないものの、三方を山々に囲まれる雄大な自然環境でありながら、博多と筑豊を結ぶJR篠栗線が東西に走っていることから博多駅まで快速で18分と交通利便性も良く、近年注目されている町です。また、篠栗四国八十八ヶ所のお遍路の町として栄え、総本寺南蔵院には世界一のブロンズ涅槃像があり、国内外から年間約100万人の参拝者が訪れます。町内にすべての札所があることから、健脚の持ち主なら二泊三日で回ることができる手軽さもあり、そのご利益を求めて巡礼される姿もみられます。

●私の原体験

この町に生まれ育った私が、父に誘われて一緒に歩いて遍路をしたのは、大学に落ちた春でした。緑映える新緑の景色を楽しみつつ、それぞれの札所や茶屋でお接待を受けながら清々しい気持ちになったことを今では懐かしく思い出します。とはいえ人生中々上手くはいかないもの、また次の年も大学に落ちてしまい、失意のなか再びお遍路へ。その甲斐あってか翌年には無事に入学でき、お礼の気持ちで三回目のお遍路に至ります。この三年連続のお遍路で私はすっかり自分の生まれ育った町、篠栗の虜になってしまったような気がします。


●町長になって

そうした青春時代の原体験があったのでしょう。地元で銀行に勤めておりましたが、平成十六年、五〇歳の時にご縁があって乞われ、一念発起して町長に立候補し、当選して町のために働くこととなりました。まず取り組んだのが、恵まれた環境を活かした「森林セラピー基地篠栗」の発信。私自身も森林セラピストとなって仲間と活動しながら、町内外の人に篠栗の山の素晴らしさ、五感を開いて心を鎮めることの重要さ等を伝え始めました。それから早十五年、白髪頭になりつつも、情熱を絶やすことなく、住民の福祉の向上とまちづくりに取り組んでおります。

●「篠栗町まち・ひと・しごと創生総合戦略」

私が町長になったころから、国の政策も大きく変化し、三位一体の改革や政権交代、東日本大震災等各地の災害を経験し、顕著となった人口減少社会を見据えた、初の人口維持政策としての「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の名のもとに、それぞれの自治体が個性を打ち出して、その存続をかけた取組が求められる時代となりました。それまでの地方交付税頼りのいわゆる三割自治体であるわが町も、変わらなければならないとの思いで「篠栗町まち・ひと・しごと創生総合戦略」の実践に取り組み、その中心となる事業として三年前から新たな食品系工業団地開発に着手し、現在、2021年開業に向けて事業を進めているところです。福岡市にある辛子明太子製造販売会社が、本社・工場移転を発表、北九州市に本社のある珈琲焙煎販売業者からも、東アジアに誇れる焙煎工場を建設し、自社のコーヒー豆を広めたいと、その意気込みを表明していただいています。21世紀にふさわしい、産業ロボットを駆使した新しい食品系工業団地が新たな篠栗町の核として機能し始め、周りを囲む山々の緑に馴染んで、人が訪れる、人を呼び込む町に変化すると信じています。

●これからの篠栗町

私も経験してわかったことですが、多くの先輩方がお話しされているように、まちづくりは、長期ビジョンを持って、軸のブレない政策をきめ細かに積み重ねていったなかに、初めて花開くものだとつくづく感じております。すべてが私の時に完結するものでもなく、また新たな芽が出て、次の世代に花が開く。その積み重ねこそ持続可能なまちづくりの具現化ではなかろうかと感じます。私は情熱を持ち続けて頑張りますが、賞味期限が切れる前に次の世代にバトンタッチをして、篠栗町の更なる発展を楽しみたいと思っています。