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「有人国境離島法」がつなぐ島の未来

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年6月22日更新

長崎県新上五島町長長崎県新上五島町長  江上 悦生

新上五島町は、長崎県の西方、東シナ海に浮かぶ五島列島の北部に位置し、平成十六年八月に五つの町が合併して誕生した町です。町の大半が西海国立公園や二つの重要文化的景観に指定された、風光明媚な島です。

かつては、捕鯨や大中型まき網漁業の基地として栄えましたが、商業捕鯨の禁止に加え、基幹産業である水産業の著しい斜陽化が重なり、人口減少と少子高齢化が急速に進行しています。

私の出身の旧奈良尾町の大中型まき網漁業は、昭和五十七年に三百三億円の水揚げを記録し、従業員数は二千人を超え、五島経済の動脈的存在とまで評され、「一網一億円」のタイトルで鰆漁が放映されたこともありました。平成に入り、資源の減少や燃油の高騰、近隣諸国の進出等により、急速に経営が悪化し、漁船団の再編が進み、現在は四分の一程度になっています。

人口も、昭和三十年の五万七千人をピークに、一万八千人余に減少しています。四月に公表された国立社会保障・人口問題研究所の推計人口によると、二〇四五年には七千六百八十五人まで減少し、自治体が消滅しかねないと警鐘を鳴らされています。

このような離島の現状を憂い、自民党離島振興特別委員長である谷川弥一衆議院議員が中心となり「故郷を何としても存続させたい」との不屈の信念のもと、私どもの想像を遙かに越える戦略やご尽力により、昨年有人国境離島法を施行に導いてくれました。

この新法は、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の推進に、この上ない後押しとなる制度で、大きく四つの施策からなっています。

一点目は、全島民の航路や航空路運賃がJR運賃並みに値下げされ、挙って喜んでいます。

二点目は、第一次産品等の海上輸送コストの八割支援で、事業の拡大はもとより待遇の改善や雇用の増に繋がっています。

三点目は、滞在型観光の促進です。漁師の朝飯、釣り、観光神楽鑑賞、星空ナイトツアーなど十七の体験メニューを準備して、多くの皆様のご来島をお待ちしています。

四点目は、雇用を生み出す創業や事業拡大に対する費用の四分の三(それぞれ上限あり)の支援策です。

これらの施策を活用し、昨年度は十六事業者が四十八名の雇用増を実現、今年度は十九事業者で五十六名の雇用増を目指しています。

その効果もあり、昨年は八十三名の移住者に恵まれましたが、まだ就業者が不足しており、今年から看護助手やまき網漁業従事者に、外国人技術研修生を活用する計画を進めています。

本町を未来につなぐためには、この新法などを最大限に活用し、雇用の場と交流人口の拡大を図り、人口の社会減を限りなくゼロに近づけることが命題です。今後とも、町民の皆様とより一層力を合わせて、子育て世代の支援や若者定住施策を推進し、高付加価値微細藻類生産施設の実現など、雇用の創出を目指して全力で取り組んで参ります。

また、今夏の「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(本町では「頭ヶ島の集落」が構成資産)の世界文化遺産の登録実現を信じ、観光客の急増に備え、宿泊施設のリニューアルや新設をはじめ、ガイドの育成、インバウンド対策、町民あげての爽やかなおもてなしなど、受け入れ体制の充実に取り組んでいます。

テレビでは、一月にタレントの出川哲朗さんが本町を訪れ、深緑の山々に包まれた桐教会からの透明度が高いコバルトブルーの海を臨み「世界一やー」と絶賛してくださいました。本町には、このように〝インスタ映え”するポイントが随所にあります。

島の原風景を体感すべく毎年八隻程度の大型クルーズ客船に寄港いただいており、十月には初めての外国船籍「ブレーメン」がドイツから入港されるのが楽しみです。

二十九の教会群のほか、国の重要無形民俗文化財「五島神楽」、遣唐使が伝えたとされる「五島手延うどん」や日本一多い自生の藪椿を活用した厳選椿油づくりの体験など、歴史・文化のロマン溢れる「癒しと祈りの島」に、是非一度ご来島願えますれば幸甚に思います。