−新時代の地方自治−


平成6年9月26日


全国知事会
全国都道府県議会議長会
全国市長会
全国市議会議長会
全国町村会
全国町村議会議長会

 21世紀を迎えようとしている今、日本は、大きな変革を迫られており、「地方分権」の実現は、その変革の基本を成すものである。

 21世紀を迎えようとしている今、日本は、大きな変革を迫られており、「地方分権」の実現は、その変革の基本を成すものである。

 戦後、経済の再建と国民生活の安定は、最大の課題であり、これらを解決するために、中央集権型の制度に依存した画一的な行政運営が半世紀にわたり行われてきた。

 国民の努力もあり、多くの成果を生み出すことができた現在、より成熟した日本社会の構築を図るためには、新しい国民的な目標が必要となっており、「地方自治の充実」及び「地方分権」が、国民的目標の一つとして再認識され、大きく脚光を浴びている。

 国際的には、民族紛争、地球環境問題への対応など、全世界が協調して解決すべき多くの課題に対して、先進国の一員として、その経済力に相応した責任をこれまで以上に積極的に果たすよう強く期待されている。このため、国政はこまごまとした事務から解放され、新たな国際社会の秩序形成と国民社会全体の存立と発展にかかわる「国際関係の調整・貢献業務」などに専念できるような体制に変革していくことが必要である。

 国内では、経済成長が所得水準の向上をもたらしたものの、多くの国民は、それを実感できず、真の豊かさを求めようとしている。このため、成長優先の政策から生活重視の政策への転換が行われつつある。生活重視となれば、生活に身近な地方公共団体の果たす役割への期待が高まるのは当然であろう。さらに、中央集権的な行政の結果、首都圏への一極集中、地方における過疎化、地域経済の空洞化などの課題が生じており、このためにも、地方公共団体が、迅速・機敏に、きめ細かに、しかも自立的・総合的に行動し、生活の向上と魅力ある地域づくりに邁進できるような権能と条件を備えてゆくべきである。

 今こそ、地方公共団体は、地方自治が住民の権利と責任において主体的に形成されるべきという基本的観点に立って、その責務を果たすために、より足腰を強めて「自立する」ことが肝要である。

 我々が「地方自治の充実」を期して、地方における事務権限の抜本的強化、財政自主権の確立などを内容とする「地方分権」を強く求めているのは、正にこのような考え方に立つからである。このことは、21世紀に向けた国民的目標を達成するためにも不可欠なものであると確信している。

 例えば、まちづくりを取りあげると、全国一律の基準では、それぞれの地域の特性を反映した「まち」が実現できないことは自明であり、まちづくりのような一定の区域に限定される属地的な行政分野は、本来的に地方公共団体の仕事と言えよう。

 また、社会福祉にしても、一人ひとりの高齢者や体の不自由な人たちが必要としている個別的なケアサービスを十分に提供するためには、地域住民の声が迅速かつ的確に反映できる身近な地方公共団体に権限と財源が確保されるべきである。

 地方公共団体の手により立案・調整された施策の遂行が保障され、地方公共団体が責任を持って実施できるという「自立的な地方行財政システム」の確立が求められているのはそのためである。

 地方公共団体も自らの変革を厭うことなく、民主、公正・透明、効率の実現のための努力を重ねなければならないことは当然である。そして、総体として国民の自由な活動が保障され、国民の負担をできるだけ軽減するという方針を堅持しつつ、これまでの国と地方の役割分担を徹底的に見直し、国と地方を通じた抜本的な行財政改革を断行すべきである。

 今回、地方関係六団体が「地方分権推進委員会」を発足させ、具体的な地方分権推進方策について検討を進めてきたのは、以上のような考え方に立ち、国に依存しつつ地方は責任を回避するというような「甘え」の姿勢を自らが正し、まず、地方が率先して、「地方分権」の推進について具体的な提言を行う必要があるとの認識からであった。

 本意見書は、二層の自治制度は当面維持されるべきものとの考えの下に、審議・検討を進めてきた。なぜなら、すでに、都道府県も市町村も国民意識の中に広く定着しており、いたずらに受け皿論に終始し、国民の求める「地域の自立」が遅れてはならないと判断したからである。

 また、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体において処理するという観点から、市町村優先の原則に立脚し、それぞれの役割を地方自らが明確にしていく必要があるが、当面、都道府県に重点を置いた国と地方との役割分担の見直しを進めることが現実的かつ効果的である。

 国と地方との役割分担の抜本的見直しに伴う国から地方への公務員の再配置については、これに適切に対応する措置をとることが必要であると考える。

 本意見書は、以上のような認識に基づき、昨年の「地方分権の推進に関する国会決議」や臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)の最終答申などを踏まえ、今後の国における地方分権に関する大綱方針の策定に向けて、地方の意見が反映されるよう「地方分権推進要綱」(別紙)として、とりまとめたものである。

 「新時代の地方自治」のあり方を見据えつつ、地方公共団体の総意を結集した今回の意見書は、地域住民の期待に応えるための、地方公共団体自らの決意表明であり、国に対する具体的な初めての意見具申である。地方六団体の「地方分権実現」に向けての考えについて、理解を強く求めたい。

 地方分権推進要綱 

目次

第1  総則
第2 地方公共団体と国との関係
第3 財政自主権の確立及び地方分権の推進に伴う財源の保障
第4 地方分権推進計画の作成等
第5 地方分権委員会の設置
第6 地方公共団体の行財政運営の民主化、公正・透明化及び効率化
第7 地方公共団体と国との裁判的調整
第8 地方分権の推進に関する法律の制定