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政治家と健康

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年4月24日

エッセイスト 山本 兼太郎 (第2312号・平成12年4月24日)

健康そのものの人が、いきなり倒れて意識不明になる。厳しいストレスの中での健康管理が、いかに難しいかということである。そこで思い出すのが「ヤルタ会談」である。第二次世界大戦も終りに近づいた1945年(昭和20年)2月、ソ連のウクライナ地方ヤルタに、米・英・ソ三国の最高首脳が集まって重要会談を行った。ルーズベルト、チャーチル、スターリンで、ルーズベルト63歳、チャーチル71歳、スターリン66歳。会談の内容は、すでに敗戦が決定的となっていたドイツを、降伏後どうするかというものだった。

会談の主役を演じなければならない米大統領ルーズベルトは、3人のうちでもっとも若かった。ところが、このときかなりの脳動脈硬化で、精神状態もすっきりしないありさまだった。これがスターリンの乗ずるところとなって、押しまくられ、老巧な英のチャーチルも、手のほどこしようがなかった。

その結果、ドイツは東西に分割されて、会談は西側の失敗に終ったというのである。ルーズベルトは、この会談で精根がつき果てたのか、2か月後に死去している。「親愛なるサム、誕生日おめでとう、60歳の老人になって、さぞいやな気持ちだろう。僕は60歳までに、まだ23日あるがね」

ルーズベルトは、63歳にはこのようなウイットに富んだ楽しい手紙を書くほど元気でゆとりもあった。それがわずか3年間に、一国の運命を左右するほどの健康状態になっていた。戦争という苛酷なストレスのせいであろう。

かって、鉄の女といわれた英国のサッチャー女史、3期連続して政権の座についたのは、英国では160年ぶりだというので世界中が驚いた。そのバイタリティーについて「なにか特別な健康法でも…」と新聞記者に聞かれたときの言葉が「もしそういうものがあるなら、私にも教えてほしい」――だった。健康管理は人それぞれ、簡単なようで難しい。