筑波大学名誉教授 村上 和雄(第2834号・平成25年3月25日)
冒険家でプロスキーヤー・三浦雄一郎氏は70、75歳に続いて80歳で三度目のエベレスト登頂のため、3月28日に日本を出発する予定だ。
雄一郎氏は1964年31歳の時、スピードスキー競技で世界記録を樹立した。「何でもいいから、世界一になりたいと思った」という。しかし、記録だけではなかった。 「不安、恐怖心、自分との戦いにおいても、世界一でありたいと思った」。それは、普通の名誉欲とは違い、人間としての深さをもっている。
もう一つ彼は「誰も気がつかないことをやって、みんなを驚かしてやろう」という、いつも少年のような茶目っ気を忘れず、命がけでそれを考えているところが面白い。 その結果、パラシュート制御を駆使した「富士山直滑降」に始まり、数々の冒険につながっていった。1970年には世界が度肝を抜かれた「エベレスト大滑降」をやってのけた。
雄一郎氏は単なる冒険野郎ではない。それまで誰も考えなかったことを発想し、その発想を実現するために緻密な調査に始まり、科学の粋を集めた研究、開発、さらには、 未知の風圧や気候に対するトレーニングがあった。そして、素晴らしいことに彼の熱意に動かされたパトロンが日本にいた。
この大冒険を記録した「エベレスト大滑降」という記録映画は、アカデミー賞の記録映画部門でオスカーを受賞した。さらに、1985年には(52歳)ついに世界7大陸の 最高峰からの滑降を全て成し遂げた。
その後数年は、さすがに彼も終わりだと思われていたが、身体を鍛え直し、見事にカムバックを果たし、70歳と75歳でエベレストの登頂に成功という前人未踏の偉業を成し遂げている。
今回の登頂も、心拍数や血中酸素濃度などのチェック器具を含め、万全の準備を整えて出発するので必ず成功すると思われる。
彼がやってきたことは、「人間力と科学が一体になった極限への挑戦」であり、私たちに勇気と希望を与えてくれる。