筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2568号・平成18年7月17日)
いま、日本の学生の学力低下が問題になっていますが、エデュケーションは人のもっている潜在的な力を引き出すという意味で、単に、知識や技術を教えることではありません。
偏差値秀才は暗記力にすぐれ、与えられた知識の中では問題を解決できます。しかし、自分で考える力や想像力、問題発見能力に劣る人がいます。
どうすれば人の持っている潜在能力を引き出せるのでしょうか。勉強するのは、もともと楽しいことだけではありません。何か目標に向かって必死にするものです。しかし、現在の日本は子供が目標や夢を持ちにくい社会です。これは子供たちの責任ではありません。現在、日本の社会、親、教師にも、大きな夢や目標がないのです。
国立研究所の研究データによりますと、高校生以下の子供たちが「やる気」を出すきっかけは次の三つです。
第一は「ほめられたとき」。日本の親の八割は子供に不満を持っていて、ほめるどころではありません。世界中の八割位の親が「自分の子供は、まあまあよく育っている」と考えているのとは好対照です。少しでも良いところを見つけ、認めて、ほめて育てることが大切です。
第二は、子供は授業が理解できる状態が続くと、やる気になります。わからないことが理解できた時、人は嬉しくなるものです。
第三は、大自然の中でスポーツや地域の活動などに参加しているときです。人類は、何十万年も大自然の中で育ち、助け合いながら生きてきたのですから。
遺伝子学的に言えば、あなたの遺伝子暗号は、99.9パーセント以上他人と同じです。人はそれぞれ違いますが、みんな素晴らしい可能性を持っています。この子供たちの眠れる遺伝子をオンにする責任は教師、親、そして社会にあるのです。