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町村が育てた大選手

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年10月5日

ジャーナリスト 松本 克夫 (第2695号・平成21年10月5日)

夏以来、うれしいスポーツニュースに関係町村が沸いている。日本人として史上最年少で米国女子ゴルフツアー優勝を飾った宮里藍選手は、沖縄本島北部の東村(ひがしそん)の出身である。パイナップル生産で知られる村だが、人口は2,000しかない。村では、「藍ちゃん」が小学校6年生の時から後援会を立ち上げて応援している。

8月にベルリンでの世界陸上選手権のやり投げで銅メダルを獲得した村上幸史選手は愛媛県上島町(かみじまちょう)の生名島(いきなじま)(旧生名村)で育った。中学時代の剛球投手ぶりは海を越えて鳴り響いていた。同じ世界陸上の女子マラソンで銀メダルの尾崎好美選手は神奈川県山北町(やまきたまち)で鍛えた。広い範囲が丹沢大山国定公園に入る山間の町だ。

野球でも快挙があった。夏の甲子園で、 新潟県勢として初の決勝進出を果たした 日本文理高校のバッテリー、伊藤直輝君 と若林尚希君は共に山形県と接する関川村(せきかわむら)育ちである。村の野球スポーツ少年団 時代からバッテリーを組んできた。そして、あの9年連続200本安打のイチロー である。名古屋市出身のイメージが強いが、実は北隣の豊山町(とよやまちょう)の産である。

人口では全国の10分の1強しかない町村が世界的な選手を輩出していることは特筆していい。たまたま天才が現われただけさといえないことはないが、恵まれた素質も適した土壌がなければ開花しない。よき家族、よき友、よき指導者はもちろん、元気に育てと見守る周囲の温かいまなざしが欠かせない。いやいや、山や川や寒風だって、子供たちの鍛錬に一役買っていよう。大選手の卵は多くの人と自然によって育まれるといっていい。

この世で一番大事で1番難しい仕事は人を育てることだろう。地域を見る際、とかく経済指標などに目が行きがちだが、地域の真価が問われるのはどういう人間を育てたかである。たとえ過疎でも、たくましく、へこたれず、志の高い青年を育てられれば、金メダルに値する。栄冠に輝く選手たちを育てた町村に乾杯。