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美女と言葉

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年2月26日

千葉市女性センター名誉館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子
(第2591号・平成19年2月26日)

日本を代表する美女といえば、山本富士子さんの名を挙げる人が多い。美女という言葉は、ただ顔かたちの美しさだけには使いたくない。言葉や立ち居振る舞いなど、全身を包む佇まいや醸し出される雰囲気が美しくなくては美女とはいえない。顔の作りなどは、美容術で簡単に変えられる昨今だが、言葉の豊かさや、醸し出される内容の深さは、なかなか手にできないらしく、心から溜め息のでる美しい女性にはなかなか出会うことが難しい。

私が担当する「ラジオ深夜便・輝け熟年」に今年最初に登場してくださった山本富士子さん。その美しさは、まず言葉にあった。ひと際整った姿形は言わずもがなのことだが、お話の内容といい、声といい、言葉の一つ一つといい、あの美しい姿形を凌ぐといっても過言ではないのだから、想像して頂けると思う。映画や舞台で知る人たちも、ラジオでの身近な言葉に、改めて魅了され、多くの反響が私の手元に届いた。「大女優なのに何と謙虚で自然」等々。山本さんは深く明快な言葉で語って下さった。「女優の仕事はたえず自分を磨いていかなくてはならない。仕事は非凡でありたいが、普段の自分は平凡でありたい…。」 

ご家庭では料理は勿論、家事全般、見事にこなされる大主婦でもある。「50年に及ぶ芸能生活…」と私が不覚にも申し上げたら、すぐ「芸能というより生きてきた道のり」と訂正された富士子さん。言葉の捉え方にまじめな生き方がそのまま見えて、嬉しくなる。

どこから拝見しても変わらず美しい富士子さん。「人は年を重ねただけでは老いない。理想を失うとき初めて老いる」というS・ウルマンの詩が好きで、お財布に入れて持ち歩いているという。

生き方の鍵を知らせてくれる言葉に出会うと折々書き留めておられる。 

言葉の力・言葉の心に耳を澄まし大事になさっていることと、あの深々と豊かで明晰明快な表現力、そして比類なき美しさとは繋がっている…と、改めて感じた嬉しい放送のひと時であった。