NHK国際放送局長 今井 義典(第2633号・平成20年3月10日)
百聞は一見にしかず、とはよくいったものだ。世界のいろいろな所に行ったが、富の集積がこれほど短時日のうちに進み、とどまるところを知らない国は初めてだ。中東のアラブ首長国連邦である。人口450万、このうち自国民は2割、あとは近隣のイスラム圏や東南アジアからのゲストワーカーだ。
1人当たりのGDPは日本並みの3万2千ドル、でも自国民だけで計算すると15万ドルという推計もある。7つの首長国の中核アブダビでは、石油はあと百年もつというし、SWF(政府系ファンド)の運用資産は100兆円を超える。
隣のドバイは連邦の玄関口、不夜城のドバイ空港から世界九十カ国を結ぶ航空路線が伸び、港の自由貿易ゾーンは中東から南アジアにかけての巨大貿易基地だ。ドバイには東京も顔負けの超高層ビルが林立しているだけではない、世界の建設用クレーンの半分が集まっているといわれるほどの建設ブームが続いている。砂上の楼閣かも知れないが、その砂地は意外に固い地盤と見た。ファンドは窮地に陥った米国金融機関を救い、成長の見込める先進企業に出資し、ときにはそっくり傘下に収めることもある。
資源と富でどんどんつながっていく。石油、サブプライム、水、貧困、CO2、感染症、食料・・・みんなつながっている。だからどこかで何かが起きると、たちどころに地球上のあちこちに飛び火し、良くも悪くも連鎖反応が起きる。国際的な協調が不可欠なのだが、国々はまず自国の権益や安全を守ろうとする。当然と言えば当然だが、その結果なかなか意見がまとまらない。いたずらに時間だけが過ぎる。何とかできないのか。
最後の鍵を握るのは人と人とのつながりだ。日本はかつての栄光に安住し手を拱いている暇はない。つながり、コミュニケートし、対話し、自己主張し、協調し、存在感を高めていかなければ、リーダーシップを発揮するどころか、レーダースクリーンから消えていきかねない。リーダーたちには確かな長期展望を、そして若者にはグローバル・シティズンとしての自己研鑽を期待したい。