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農村歌舞伎の楽しみ方

印刷用ページを表示する 掲載日:2014年10月27日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2897号・平成26年10月27日)

私の研究室では例年、学生とともに地域活動を行ってきた。現在は福島県地域振興課からの委託を受け、「大学生の力を活用した集落復興支援事業」に取組んでいる。 場所は福島県郡山市の東部、柳橋地区。人口800人ほどの農村集落だが、全国に50程しかない農村歌舞伎の伝統を持つ伝統芸能の里である。 私たちは地域の課題や資源について住民の方々と語り合うワークショップを行い、将来の地域振興に向けての地域の可能性を引き出す活動をしている。

こうしたまちづくりワークショップを進める一方、9月14日の歌舞伎公演に向けて舞台や会場の設営をお手伝いしてきた。学生たちは一生懸命、会場設営や撤収のお手伝いをしたことで、 地域の方々の信頼をいただいたようである。民泊させていただきながらのワークショップは順調に進んでいる。

江戸時代後期に始まったここの歌舞伎は、何回か途切れたが、その都度復活し、今日に至っている。幕府天領、交通の要衝、良質の石材産地としての地域の力が、この伝統芸能を生み育ててきたといわれる。 収蔵庫には時価一千万円を上回る衣装が何枚もあり、一つ百万円以上ともいわれる鬘も30ほど並んでいる。往時の経済力の大きさと地域の方々の大いなる誇りを感じるとともに、維持の困難さを思わざるを得ない。

さて初めて見た柳橋歌舞伎の公演は、本格的なもので驚いた。門外不出で、裏方を含めて地区の出身者しか舞台に上がれないそうだが、役者はもちろん、義太夫や三味線など、見事な技である。 地元の中学生が正課として取組んだ『義経千本桜』もなかなかの演技で、延べ5時間の公演を堪能させていただいた。と同時に、観客のおおらかさにも驚いた。演技の山場でも車座で酒を酌み交わし、 お弁当を食べて談笑しているグループがある。いつも人が立ったり座ったりしているので、舞台の写真がなかなか撮れない。私は少し腹を立てたが、やがてこれが農村歌舞伎の楽しみ方であると納得し、 舞台に近づいておひねりを一つ投げた。