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名医の辛抱

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年2月12日

名医の辛抱

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2589号・平成19年2月12日)

先日、行きつけのビストロで、現代の名医と言われる方とお会いする機会があった。お店の常連さんに連れられて来られたとのこと。お医者さんが患者さんと一緒に飲みに来られることにも驚いたが、そのお話には地域自治に通じる大変興味深いものがあった。

常連さんによると、先生の診療の特徴は、ともかく患者さんの話をよく聴くということだそうだ。お年寄りの愚痴や繰り返しの多い話にも、飽かずに耳を傾ける。その結果、娘の名前さえ思い出せなくなった認知症のお年寄りが、先生の顔だけは覚えていて、先生、先生と慕うのだそうである。先生はおっしゃる。「薬の飲み残しは大歓迎です。患者さんは病気のことを忘れて暮らしたわけで、それだけ何かに打ち込んだり、体調が良かったりした証拠だから。」。「私は医学の専門家ではあるが、決して病気の専門家ではない。病気になってどこがどのように具合が悪いかは患者さんにしか分からない。だから私は患者さんからできるだけ多くのことを聴きたいと思うのです。時には出す薬や治療の方法を患者さんに決めてもらうこともあります。」

最近、まちづくりの世界では、ワークショップの手法が盛んに使われるようになった。地域の専門家は飽くまで地域住民である。だからその住民が地域の問題やまちづくりの資源について認識を表に出して語り合うことからこそ地域の将来を見出すべきだと思う。

町村の首長や行政職員は、大きな市と比べれば地域の専門家としての力は強いであろう。

しかし、たとえば集落単位のまちづくりを考えようとすれば、自ずから限界がある。今、必要なのは、住民の意見を聴き、それを地域の政策にまで集約して行く力である。そして自分から方針を押し付けない辛抱強さのようである。市町村合併が進んでいる今こそ、小さな自治体である町村の強みを発揮して、これからの日本社会をリードするために、名医の自分の意見を押し付けない辛抱強さと謙虚さを学びたい。