東京大学名誉教授・國學院大學名誉教授 西村 幸夫(第3368号 令和8年8月3日)
先日、東京都檜原村と奈良県十津川村という対照的な村のそれぞれの林業について現場で活躍されている林業専門家を交えて議論するという興味深い機会を持った。
檜原村には東京チェーンソーズという移住者が立ち上げた株式会社がある。現在は24人の社員を抱え、すべて移住者だという。この世界では有名なこの会社は、所有する山林の1年間の成長量までしか伐採しないという林業でFSCという国際的な森林管理の認証を受けており、単に製材して市場に供給するのではなく、木を丸ごと1本、さまざまな製品にすることで経営を続けている。東京に近いという地の利を活かして、森林サービス事業として企業の研修を数多く受け入れているほか、出張型木育体験プログラム(これを森デリバリーと呼んでいる)なども幅広く行っている。地元の若者が敬遠している林業を移住者が新しい形で担ってくれているということで地元にも歓迎されているという。
一方の十津川村は、日本最大の村で、森林率が96%にのぼる。基幹産業である林業をサステイナブルなものにするために、2009年に森林づくり基本条例を制定し、その前文において、十津川村の基幹産業である林業を支える森林について、「私たちは地球温暖化防止等、森林の有する多様な機能を重視した森林づくりを行うことにより、かけがえのない森林を健全な状態で後世に継承していかなければならない」と高らかに宣言している。そして「超長期にわたる森林経営をめざした森林づくり」(第1条)のために「十津川村森林づくりガイドライン」を策定し、順次改定を続けてきている。
ガイドラインは天然林以外の森林を標高と車道からの距離のほか、法的規制・災害リスク・森林所有者の意思によって、恒続林・適正人工林・自然林に分け、森林づくりのおおまかな目標を定めている。同ガイドラインは実際に森林の施業にあたって活用されている。さらに近年では、村内森林所有者と村とをつなぐ総合的なデータベースとして「森林情報バンク」の導入が検討されており、村による森林取得の審査・実施も視野に入っている。
環境再生型林業に向けた多様かつ野心的な試みが山間部と都市近郊とで同時に起こっているのである。