法政大学名誉教授 岡﨑 昌之(第3364号 令和8年6月29日)
秋田県五城目町では500年を越えて朝市が続いている。町は秋田市と能代市のほぼ中間、東の山間部には旧阿仁町がある。秋田は県都、能代は名だたる木材の集積地、阿仁は江戸から明治まで銅生産日本一の銅山の町だ。いずれも秋田県北を支える中核的地域で、五城目町はそれぞれから約30kmの地にある。江戸から明治にかけて、馬が物流の中心であった時代、30kmは丁度一日の移動距離であった。こうした歴史的、地理的背景が、室町時代に起源をもつ五城目朝市を産み、500年を越える命脈を継いできた要因といえる。
五城目町のように内陸の田園地帯で、これほど永く朝市が続いているのは珍しい。全国朝市サミット協議会に参加する国内15の朝市も、その大半が港町や観光地だ。五城目町では中心部の町道約250m(朝市通り)を車両通行止めにして、2、5、7、0の付く日の午前中、月12回程度、朝市が開かれる。しかし馬から車の時代に変わり、秋田市への買い物流出、隣接地への大規模小売店の立地などで、朝市への来場者は漸減、出店者の高齢化で出店数はこの25年間で8割ほど減少し、朝市通りの商店も店じまいが続く。
こうした状況を何とかしたいと、2015年に商店主や移住者の女性数人で自然発生的に始まったのが「五城目朝市わくわく盛上げ隊」だ。町も支援し、翌年からは定例朝市開催日と土日曜日が重なる日に、月に2回「ごじょうめ朝市plus+」と銘打った拡大朝市を実施するようになった。閉校した小学校を活用する町地域活性化支援センター(BABAME BASE)の協力もあり、若者や町外からの出店も増えた。こどもたちが町の大人の姿を見る機会、多様な人が出会える場、出店者と買い物客、客同士の話がはずむ、暮らしの場としての朝市の復活が垣間見えるようになった。
朝市などが開かれ、病院や郵便局、町村役場など公共性の高い機能が集まる地域の中心部は、暮らしてきた人々の記憶や思い出が詰まっている。いわば町や村の歴史的、文化的遺伝子が蓄積されてきた空間だ。中心部の再生は町村のみならず都市部でも難しい課題だが、高齢者や年少者も安心して集える暮らしの場としての復活を模索したい。