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地域づくりと「試行錯誤」

印刷用ページを表示する 掲載日:2026年4月13日更新

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3356号 令和8年4月13日)

 最近、出会った二つの声を紹介しよう。ひとつは、中国地方で買い物弱者対策等を実践する著名な団体の代表者の発言である。「視察で話を聞かれても、成功したことしか言わないが、実はその何倍も失敗している。失敗したら謝ればいい。私は平気で地域のみんなに『ごめんなさい』と言っている。仲間もそれをとやかく言わない」。

 もうひとつは、北陸地方の花きの産地形成を支援した農業改良普及センターの報告である。「新規就農者の受け入れなどさまざまなアイデアを農業者間で出してもらい、まずは手探りでいろいろと取り組んだ。行きつ戻りつを積み重ねることで、メンバー(生産者)も本気になり始め、徐々に方向性も見えてきた」。

 これらの動きを読者はどのように感じるだろうか。一部の方は「失敗」や「手探り」など、当初計画が甘いから出てきた言葉であり、避けるべき展開だったと言うかもしれない。しかし、地域が直面している問題は以前と比べて、ますます複雑になり、また環境変化のスピードも速くなっている。その中で、このような対応は、むしろ当たり前になってきているように思われる。

 研究サイドからの言及もある。地域に生じる環境問題に対して、環境社会学には対応過程の試行錯誤や失敗を資源化しながら、プロセスそのものを維持し続けることが重要だという議論がある。これは「順応的ガバナンス」と呼ばれている(宮内泰介等編『複雑な問題をどう解決すればよいのか』)。

 同じような指摘は、公民館研究などの社会教育学にもある。地域の未来のあり方はよくわからないことを前提に、地域づくりでは、一つずつ試しながら、未来を形づくる必要がある。そこで求められているのは目標達成型ではなく、試行錯誤型のプロセスだと言われている(牧野篤『自己が在るとはどういうことか』)。

 農山漁村の地域づくりやそれを支援する政策でも、こうした順応型、試行錯誤型のプロセスの奨励を意識してもよいのではないだろうか。そのためには仕組みの刷新が多面的に求められる。例えば、①プロジェクトに小さな社会実験的な要素を積極的に取り入れる自由度があること、②活動に寄り添い、柔軟な軌道修正を助言できる伴走者が存在すること(集落支援員や中間支援組織)、③事業評価を計画の修正を含めてプロセス全体について行うこと、④地域内でも「失敗」を許容する文化(雰囲気)を作りだすことなどである。

 もちろん、これらがすべての領域に当てはまるとは思わない。しかし、順応や試行錯誤を意識した政策支援もあるべきであろう。少なくとも、当初計画の形式的な精緻化を競い、その完成度により優先的に財政支援するという時代でないことは間違いない。