國學院大學 観光まちづくり学部 教授 梅川 智也(第3349号 令和8年2月16日)
日本各地で人口減少や高齢化という共通の課題に直面している。そのなかで、地域の内側から新たな価値を生み出そうとする静かな挑戦が続いている。その一つが、地域FM局、いわゆるコミュニティFMの存在である。現在、全国には三百四十局以上が開局しているとされる。
コミュニティFMは、防災や生活情報を伝えるメディアであると同時に、地域の日常や人々の営みを「声」として編み直す装置でもある。とりわけ離島においては、島の暮らしと外の世界を結ぶハブとして、独自の役割を果たしてきた。
沖縄県久米島町の「FMくめじま」も、そうした離島コミュニティFMの一つである。私は観光庁事業の伴走支援などを通じて、三年以上にわたり同局の取組に関わってきたが、特に印象深いのは、単に「どう伝えるか」ではなく、「島の魅力をどう編集するか」に正面から向き合っている点である。
同局が今年度採択された事業は、「泣きたくなったら、久米島へ」と題した“デジタル断捨離の旅”の造成である。SNS疲れやストレスといった現代的課題に着目し、スマートフォンやIT機器から一時的に距離を置き、久米島の自然や人、暮らしの文化を五感で味わう滞在型プログラムだ。
国の天然記念物である畳石を活用したアーシング体験や、島の音、食、香り、人との対話を組み合わせ、癒しの効果を測定器で「見える化」しようとする試みは、曖昧になりがちな「癒し旅」に根拠を与えると同時に、閑散期の需要創出にもつながる。こうした企画が可能なのは、日常的に島のコミュニティと深く関わってきたFM局だからこそであり、企画担当者が島外から移住し、久米島をこよなく愛してきた存在であることも重要な要素だろう。FMくめじまは、もはや情報発信者にとどまらず、地域の素材を再編集する主体となっている。島の人々そのものを観光資源と捉え、「また会いに来たくなる関係性」を育てる発想は、観光と地域づくりを結び直す重要な視点だと感じている。
観光による地域活性化を考えるとき、私たちはつい新しい施設や集客力に目を向けがちである。しかし、地域にすでに存在するメディアや人々の声をどう活かすかという視点も、これからの地方行政に欠かせない。離島の小さなFM局の挑戦は、全国の町村に多くの示唆を与えている。