事業構想大学院大学教授 重藤 さわ子(第3321号 令和7年6月2日)
令和6年に改正された食料・農業・農村基本法に基づく、初めての基本計画が4月11日に閣議決定された。法改正にあたり最重要事項となった食料安全保障の確保と、その観点からの構造転換に重点が置かれているのが特徴である。農業の構造転換については、これまでも課題であったが、国際情勢の不安定化や気候変動に農業生産はすでに大きく影響を受けており、一時的な問題ではないため、いよいよ抜本的な対策を、かつてないスピードで行っていく、ということであろう。
一方で、そのようなグローバルな要請は、むしろ自然資源(再エネ含む)の豊富な自治体では持続可能な地域づくりのチャンスでもあると考えてきた著者は、基本法改正のプロセスにおいて、現状として化石燃料や化石燃料由来資材がないと成り立たない日本の農業生産の「燃料・エネルギー問題」、すなわち、脱炭素や化石燃料依存の脱却にかんする議論がほとんど出てこないことに違和感を持っていた。
その点今回の基本計画では、GXが政策の上位に位置付けられた。一方で、依然「みどりGX」と農業脱炭素の関係は明確ではない。脱炭素に最も有効な対策は「省エネ」と「エネルギー転換(エネルギーを再生可能なエネルギーに転換すること)」であり、実は今ある技術で十分対応可能であることが多い。しかしすでに事例のある営農型太陽光発電など、農業・農村における再エネ生産や気候変動適応策となる技術への取組も不十分である。
また、現場レベルでは、地域脱炭素にどれほど寄与するかの定量的検討も十分でないままに、バイオ炭等の炭素貯留機能やJ-クレジット制度への期待が先走りしている感がある。地域の脱炭素目標の実現には、地域の温室効果ガス排出構造の分析のもとに、前述したような、効果が大きく今すぐにでも導入可能な対策を優先的に検討し、その推進施策としての農業への環境支払いやJ-クレジットの議論になるべきではないか。
GX推進の目的と手段の間のちぐはぐさが気になってならない。