▲万座毛。東シナ海を臨む(沖縄県恩納村)
(写真提供:人羅 格氏)
ジャーナリスト 人羅 格(第3320号 令和7年5月26日)
沖縄県恩納村にある名勝、万座毛の名は琉球国王、尚敬が「万人を座するに足る毛(野原)」と称賛したことに由来する。4月に訪れた際は晴天。ゾウの鼻のような断崖と海の対比が美しかった。
筆者は車を運転しないため那覇市からの移動は、2時間程度かかるバス頼みだ。沖縄は典型的な車社会だ。渋滞が慢性化し、県民の生活や観光の大きな支障となっている。
2003年、那覇空港始発のモノレール「ゆいレール」が那覇市内(現在は浦添市まで)で開業した。だが他地域への移動はやはり自動車頼みで、渋滞リスクがつきまとう。
このため、沖縄島を縦貫する鉄軌道(鉄道)の整備構想が以前からある。県委員会の推奨ルートは那覇市から北谷町まで北上し、沖縄市を経由して恩納村を北上、名護市に至る。那覇~名護の所要時間は約1時間に短縮される。トンネルと高架橋を併用し、工期約10年を想定する。
実現すれば生活の利便はもちろん、沖縄観光のアクセスは大きく変わる。渋滞解消にも寄与しよう。だが、現状は足踏み状態の印象だ。約6000億円とされる工費や採算性がカベになっているためだ。
今一度、この構想の意義を考えるべきではないか。出生率が高い沖縄は2050年でも140万人近い人口を維持している。しかも国内外からの観光客に伸びしろがある。
一方で県民や観光客の移動には高齢化や若者の車離れが影響し始めるだろう。県北部の振興も考えると、鉄軌道整備には国策的な価値があると思う。
コスト減や運営主体の工夫は大事だが、実現には整備新幹線並みの国費補助が必要だろう。政治的コンセンサスが欠かせない。
沖縄には戦前、那覇市から与那原町などを結ぶ県営鉄道があった。だが、戦争で破壊され復活しなかった。
地上戦が行われ、多くの民間人が犠牲となった沖縄である。
今年は戦後80年の節目にあたる。縦貫鉄道の建設は、沖縄の戦後に向き合うことでもあるはずだ。