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揺れる国の農政に振り回されないために

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年12月23日更新

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3305号 令和6年12月23日)

 国の中山間地域政策をめぐる動きにゲンナリすることが続いている。とくに、昨今話題になっている第6期対策での集落機能強化加算の突然の廃止方針には、ゲンナリを通り越して憤りが湧いた。

 この問題をめぐる第三者委員会が11月19日に開催され、委員のひとりとして出席したが、農村振興局長が、高齢者の見回りや雪下ろしなどを「中央省庁のレベルでいえば厚生労働省の仕事であったり総務省の仕事(と思った)」と発言したのは、驚きというよりショックだった。

それは私だけではなかったようで、委員会を傍聴していた自治体職員からも、「今回の加算措置廃止だけでなく、中山間地域直接支払制度全体から、農水省は生活支援から離れるつもりなのか。今までの現場の努力をどうしてくれるのか」「現場にとって、持続性がないのが一番困る」という憤りの声が届いている。

 無理もない。これまで中山間地域農業に関しては、地域社会が維持されなければ営農も維持できないという生活と営農を一体とする考え方がベースにあり、生活支援を含めた地域政策が必須と筆者は思っているし、現場も「地域を守る」との思いを基点に、その一要素として営農維持を考えてきたと思う。農家は農業生産だけで生きているわけではないのだから当たり前だ。

 昨年施行されたばかりの新しい食料・農業・農村基本法でも、農村の振興に関して「地域社会が維持され」ること、中山間地域等の振興に関しても「地域社会の維持に資する生活の利便性の確保」と明記された。その管轄部署だと思っていた農村振興局に「他省庁の仕事」と言われてしまっては元も子もない。「農村振興局じゃなく基盤整備局にでも改名すればいいのに」という前出の県職員のぼやきに私も共感してしまった。

 折しも同制度をめぐる動きは今、流動的になっている。11月のJAグループ基本農政確立全国大会では、森山裕・自民党幹事長が、中山間だけでなく直接支払制度全般の見直しに言及した。与党と政策協議を進める国民民主党も、直接支払い制度の見直しと「食料安全保障基礎払い」創設を提言している。

 11月29日の大臣会見で、江藤拓農水相は、今回の集落機能強化加算廃止問題に関して「生活と産業は対立するものではなく一体のもの」との趣旨の返答をしたが、今後、農政の地域政策に「営農と生活支援」がどう位置づけられるのか、11月末現在、まだ不透明だ。

 とはいえ、ゲンナリしてばかりいられない。現場は日々動いている。揺れる国の農政に振り回されず、国に現場の声を届けつつ(立場的に直接批判するのは難しくても、町村会や市町村会には訴えられる)、自分たちに必要な地域政策のあり方を考えていかなければならない。

 その際に重要なのは、農水省に限らず他省庁にも視野を広げ、自分たちに必要な事業を“目利き”する力だと思う。実際に地域政策では、近年、内閣府や総務省、国交省のほうが先行している観がある。10月には内閣府に「新しい地方経済・生活環境創生本部」も新設された。

 「政策あれば対策あり」。政権や政策がどう変わろうと、現場はしたたかにしなやかに戦略を考えるしかないし、微力ながら私はそんな現場にエールを送り続ける立場でいたい。