早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸 (第3301号 令和6年11月18日)
言うまでもなく町村は一般的に市よりも小さな団体である。日本政府は行政の効率化のために、数度にわたり市町村合併を進めてきた。その結果、いわゆる平成の大合併の前に2,602あった町村は、いまや926に減っている。しかし少数の人口で合併せずに独自の道を歩んでいる町村もまだまだある。この町村週報にはさまざまな町村の情報が、ルポや地元の関係者の執筆という形で提供されている。どの町村もそこにしっかりとした暮らしと、大きな自治体ではできないような施策が展開していることが伝えられ、町村が住民をしっかり支えていることが伝わってくる。わが国では隅々まで人の暮らしがしっかりとあり、これは世界に誇っていいことだと、筆者はいつも考えている。そして小規模町村は人と人がリアルに付き合う地域社会の原点だと思う。この価値を守ることも全国町村会の使命であろう。
大森彌先生が鬼籍に入られてすでに1年以上が経過した。筆者が町村会の研究会に参加させていただいたときは大森先生はすでに行政学・地方自治の大家でいらっしゃったが、人のつきあいを大切にされる気配りの方でもあった。町村を視察されるときも、職員や住民に気軽に話しかけられ、真剣なやり取りをされていた。人の関係がよく見える小さな自治体への関心を強くお持ちであったと思う。
かつて筆者は、地理学の分野から国土審議会の専門委員として五全総の議論に参加していたのであるが、大森先生は筆者の地理学を評価してくださり、総務省の過疎問題関係の会議等いろんな場に推薦してくださった。後に過疎問題懇談会の座長として、全国の過疎地域を視察し、過疎法の数次の改正に関わることができたが、すべては大森先生のおかげである。後に町村会のミニプロジェクトでスペイン・ポルトガルを案内させていただいたことも、先生とのこのうえない時間であった。
多くの小規模町村は、豊かな自然に包まれている。まさに故郷の風景である。最近は、それに惹かれて都市から移住する人も現れてきた。しかし人口の減少傾向は続くであろう。その中で町村経営は時代と人口に合わせた工夫と刷新が必要であるが、特に小規模町村はそれを都市にない町村の価値づくりと位置づけ、必要な刷新を重ねることが求められる。そしてそのような町村の価値ある情報を集約し、伝え合う場としてこそ、この週報ひいては全国町村会のさらなる存在意義があるのではなかろうか。