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障がい者の社会参加と仕事を創る環境

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年2月5日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3268号 令和6年2月5日)

 近年、障がい者一人ひとりの個性や強みを活かした社会参加と事業化の取り組みが各地でみられるようになった。障がい者をはじめ、多様な人々が力を合わせ全国各地にショップを展開するQUON(久遠)チョコレート、障がい者アートのデザインを高付加価値化し商品をつくる株式会社ヘラルボニーなど、各地で挑戦的な取り組みが進められている。寝たきりであっても在宅で分身ロボットOriHimeを介して接客、コミュニケーションを楽しむことのできるロボットカフェのように、最新技術も取り組みを後押しする。

 第一次産業でも、農福連携をはじめ、障がい者の社会参加の機会を拡げ、稼得機会の創出を図る取り組みが起こっている。だが、障がい者の柔軟な働き方や社会参加を実現するには、経済活動として成立するための商品化と販売・流通戦略を考える必要もある。

 先日、長崎県東彼杵町で出会った取り組みは面白い。若い世代が集まり、「=vote」(イコールボート)というブランドを構築する。誰もが等しく参加できる社会、持続可能な地域づくりに向けて、投票するように商品を選ぼうというコンセプトのブランドだ。

 元コインランドリーだったレトロな店舗には、思わず手に取って買いたくなるデザイン性の高いアクセサリーやステーショナリーなどの雑貨やアート作品が並ぶ。再利用率90%の段ボールを使った紙の額縁など、近隣企業の廃材等を資源として利用しながらデザイン性の高い優れた商品開発も行われている。

 商品は全て、障がい福祉サービスを利用する人たちが手掛ける。デザインだけでなく、縫製や布への印刷などの製作までを一貫して障がい福祉事業所が行っているというから驚きだ。東彼杵町から佐世保市の一帯で、障がい者一人ひとりの特性を踏まえた社会参加と稼得機会を創出できるよう、複数の事業所が連携する体制を整えている。その品質は高く評価され、イコールボートの商品は、東京駅や大阪の百貨店でも販売されている。

 イコールボートは、福祉施設のモノづくり技術の高さを世の中に伝えることや、企業の廃材利用を通じた環境負荷の低減、多様な働き方を可能とする環境創出、優れたデザイン力により、豊かな地域の空間づくりを目指す。

 一人ひとりが自分のできることに取り組み、そのつながりのなかで、楽しく働き楽しく暮らす。誰もが参加できる持続可能な社会の創造に向けて、福祉政策も「弱者救済」から「参加と共感」を支える地域の環境づくりへと転換が求められていると感じる。