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強固なムラ社会

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年1月22日

東京大学名誉教授・日本農業研究所研究員​ 生源寺 眞一(第3266号 令和6年1月22日)

​ ​​昨年の後半はマスコミ報道が毎日のように繰り返されるできごとが目立った。大谷翔平の移籍や議員へのキックバックが念頭にあるが、もうひとつ、日大アメフト部の違法薬物事件も頻繁に報じられた。正直なところ、私には日大の問題が気になった。長らく大学教員を務めたことや、学生時代にかなり乱暴な寮生活を送った経験もあって、遠い世界のできごとではないとも感じていた。そして12月に入ると、報道でショッキングな表現に触れることになった。「強固なムラ社会の意識」である。11月30日に日大が文部科学省に提出した改善計画には、強固なムラ社会の意識が秘密主義や排外主義につながったとの記述が含まれていた。農業とともに歩んできた1人として、農村社会の否定的な評価による言説は深刻に受け止めざるをえない。

 農業用水に代表される資源や公民館などの施設。こうした共有の資源や施設を保全・活用する農村の共同行動が、農林業の活動や日々の暮らしを支えている。コミュニティの共助の営みには、多くの都会では失われてしまった文化的資産としての価値もある。加えて共同行動の合理性には国境を越えて評価されている面がある。他方で農村に変化が求められている点も否定できない。地域外から新規就農する若者も現れるなかで、決まりごととして作業を強制することには無理がある。互いに納得のうえで参加する共同行動への転換が課題であり、それがコミュニティに残る閉鎖的な側面の克服にもつながる。こうした変化に挑戦している点に、現代の農村の特徴があると言ってよい。

 簡単なことではない。短期間で可能なことでもない。けれども同時に、新たな農村社会に向かう取り組みを政策的にサポートするとともに、これを都会の皆さんに理解していただくことも大切である。「強固なムラ社会の意識」との表現には、現代の農村の実態に疎い人々の思い込みが反映されている。そんな先入観からの脱却は、今後の都市農村交流の広がりにも結びつく。