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子どもたちが帰りたくなるまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年6月20日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3203号 令和4年6月20日)

先日、女性農業者の友人が、「20年ほど前から10年間、小学生の『田んぼの先生』をやっていたんだけど、最近、当時の“教え子”たちが、農業後継者になって地元に戻って来るんだよね」と話し始めた。

当時は、どれだけ子どもたちに伝わっているかわからなかったが、大人になって帰郷した彼らから、「あの授業がすごく面白かったから、農業もいいなと思った」と言われると「長い目で見たら意味はあったんだなあ。食育は未来を作る仕事だね」と言った。

食育基本法が施行された2005年から数年間は、「食育バブル」と言われたほど国の手厚い支援事業があった。数年後、総合学習の削減とともに、食育の「費用対効果」を求める風潮も顕著化し、事業は縮小した。しかし、食育は短期間で「費用対効果」を実証できるものではない。

地域教育も同じではないか。近年「Iターン」や「関係人口」は話題になるが、「Uターン」施策はあまり語られない。地元に良質な雇用がなければ、「子どもは都会へ」が親心。秋田出身で高度成長期に育った私自身、両親から「東京に出て行く前提で育てた」と言われた。

しかし、地域に産業がなければ、地域資源を活かした地場産業を創出すればいいというビジネスの発想の芽を、地元の子どもたちの心に育てる教育があっていいのではないか。

かつて山口県の高齢化率ナンバーワンだった周防大島町でIターン起業した㈱瀬戸内ジャムズガーデンの松嶋匡史社長は、「若者が地域に戻ってくる教育づくり」を目指し、小中高校や山口大学と連携し、小学生ではキャリア教育、中学生では模擬株式会社を設立しての商品開発や販売体験、高校生ではビジネスプランコンテストなどを始めた。

「『自己実現のためには島外に出なければ』と考えるのではなく、『事業の芽も本当の幸せも足元にあるよね』という意識を育てたい」との思いがあったと本人から聞いた。

鮭が川に戻ってくるような「人育て」は、地域の最大の夢のはずだ。近年、文科省でも高校魅力化支援事業があるが、補助事業に左右されず、短期間での成果を求めず、少なくとも10年スパンで取り組む心意気が大事だと思う。それでひとりでもふたりでも、地域の核になる若者が誕生したら、すごいことではないか。