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辛口温泉観光地のまちづくり考

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年4月2日

とちぎ協働デザインリーグ理事・作新学院大学名誉教授 橋立 達夫
(第3034号 平成30年3月26日)

50年余りにわたり全国各地のまちづくりに関わった経験の中で、最も難しい地域は、「昔栄えた温泉観光地」であると思っている。理由は地域によって様々だが、敢えて辛口に挙げてみる。思い当たる節はあるだろうか。

◦ 温泉という有力な資源に頼り、黙っていてもお客が来たという状況から、まちづくりに意識が向かなかった。

◦ 旦那衆は、昔栄えた時の栄光と誇りが忘れられず、いつかまた、その日が来ると思っていて、時代の流れに対応しようとしない。また、地域一番の文化を旦那衆が享受し、観光客の目からも隠している。

◦ 女将は現場の指揮官という位置づけで、地域づくりの根本的な部分に女性の感性が入りにくい。また若い人の感性も入りにくい。

◦ 観光客の呼び込みに力を入れる余り、景観や音など環境への配慮が足りない。

◦ お客の消費をすべて館内でさせようと観光客を街へ出そうとしない。その結果、街の灯が消えてしまう。

◦ 旅行代理店頼みの団体客誘致を続けてきたため、顧客のニーズを掴む力や、地域内の連携の力が弱まっている。

◦ 団体客に対応する食材や土産物の大量仕入れにより、地元の農林水産業や特産品産業との関係が切れている。

◦ 同業者は仲間であると同時にライバルであり、何か新しいアイデアが出ても、特定の人のためではないかと疑心暗鬼が生じる。

◦ そこで、ともかく人さえ来れば活性化するという考えでイベントを打つ。しかしその多くが、地域の文化として定着するようなものではない。

◦ 観光客をもてなすことばかりに頭が行き、地域住民(従業員を含む)が一緒に楽しめるような仕組みがおろそかになった。

もちろん、これらの問題点を克服して、発展を遂げている地域もある。しかし、その多くが個々の事業者の内部改革に止まっており、地域全体で協調性をもって、地域の問題を根本的に解決するような取組みは少ない。

観光地全体としての文化レベルを高めて行かなければ、これからの時代の競争には勝てない。「住んでよいまち来て見てよいまち」を目標に、住民や従業員、さらに観光客の意見も採り入れ、新しい「観光まちづくり」を目指して欲しい。