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にぎやかな過疎

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年2月21日

明治大学教授 小田切 徳美(第3030号・平成30年2月12日)

最近、農山漁村を歩くと、「過疎地域にもかかわらず、にぎやかだ」という矛盾した印象を持つことがある。人口データを見る限りは依然として過疎であり、むしろそれが加速化したりしている。しかし、地域内では新しい小さな動きが沢山起こり、なにかガヤガヤしている雰囲気が伝わってくる。それを「にぎやかな過疎」と称している。

実は、この言葉は筆者のオリジナルではなく、テレビ金沢による秀逸なドキュメンタリー(2013年5月放映)のタイトルから拝借したものである。そこでは、能登半島の過疎化した集落に入る移住者とそれによりにぎやかになっていく地域の変化が丁寧に記録され、見る者に感動を与えている。

しかし、そのような状況は能登半島だけではなく、いくつかの地域で発生している。最近訪ねた自治体で言えば、例えば、愛知県東栄町、山口県阿武町、同県周防大島町などで、その雰囲気に触れることができた。

これらの地域は、国内に点在する田園回帰の「ホットスポット」であり、移住者数は増加基調にある。しかし、単なる頭数の増大だけではなく、彼らがネットワークを作り、それ自体が動き出していることが重要だろう。移住者相互の「人が人を呼ぶ」という関係はさらに活発化して、ある起業が別の仕事を生み出すような関係が見られる。また、地域の元々の住民と移住者が気軽に話をできる場を、バーやカフェの形で作っている点も共通している。それは、いわば「地域の縁側」であり、「にぎやか」という印象はここから発信されていることが多い。

もちろん、地元の人々との繋がりなしには移住者の動きは上滑りとなろう。その両者を行政がしっかりと結び付けているのが、名前をあげた3町に共通する特徴である。それは行政に限らず、NPO等による中間支援組織がその役を担うことも可能であろう。

この結果生まれた状況が、「にぎやかな過疎」であり、別の表現をすれば、「人口減・人材増」に他ならない。人口の自然動態がマイナスであるために、地域全体の人口は引き続き減少しているが、地元の人々を含めて、多様な人材が多様なルートで形成されている。

こうした「にぎやかな過疎」は、過疎地域だけでなく多くの地域の目標ではないだろうか。そうであれば、これこそが地方創生の具体像となる。