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『実践力とチームワーク』

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年1月15日

福島大学教授 生源寺 眞一(第3025号・平成30年1月8日)

早いもので、福島大学に着任して9カ月。私の任務は農学系の学部を新設する仕事のお手伝いである。2019年4月の開設を予定していることから、準備の作業にも一段と熱が入ってきた。38名を予定している教員の選考過程も最終段階を迎えており、カリキュラムや入試科目の細部の詰めも進んでいる。

福島県は東北でただひとつ農学系学部のない県であった。その空白を埋めるわけだが、同時に、ささやかながら農学教育に一石を投じることも念じている。奇抜なことではない。ひとことで表現するならば、実践力を重視する教育の復活である。何をいまさらと首を傾げる読者もおられるかもしれない。そもそも農学は現実の課題を解決することを目指して発達してきたからである。

けれども現代の農学は高度に専門化している。学問として専門性が高まること自体は悪いことではない。問題は、専門化・細分化によって当初の課題や目的の意識が希薄になりがちなことである。何のための学習であり、何に役立つ研究なのか。ここを絶えず問い返す教育を実現したい。

掛け声だけでは意味がない。稲や野菜や果樹に触れる農場実習を入学当初からスタートする。2年次の後半からは、現場で問題の解決に取り組むフィールド実践型教育が始まる。学生は県内の7カ所に分かれて、具体的な課題に挑戦する。この現場体験が卒業後の進路にもつながることもあるだろう。

もうひとつ、食と農の問題はフードチェーンの流れに沿って解決する必要がある。農林漁業の資源が健全に維持されて、農産物などが安定的に生産される。その素材が食品加工や外食の段階を経て消費者のもとに届くという流れである。それぞれの段階に農学の専門的な知見が求められる。この意味において、農学の実践力には異なる専門領域のチームワークも不可欠なのである。

チームワークを前提にした実践力の涵養。これが新設学部の教育理念なのだが、考えてみれば、この理念は町村職員のあるべき姿とも重なっている。役場で活躍できる人材の育成につながることも期待したい。