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『田舎ぐらしの7ヶ条』

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年12月22日

作新学院大学名誉教授・とちぎ協働デザインリーグ理事 橋立 達夫
(第3024号・平成29年12月18日)

和歌山県かつらぎ町の中南部にある天野地区は、200戸ほどの里である。観光バスが通る高野山の主要参詣道である国道480号から東に折れて10kmほど急峻な道を登ると、台地上に水田が広がる天野地区に至る。地区の中心には、弘法大師を高野山の地に導いた一族と云われる丹生都比売(にうつひめ)を祀る丹生都比売神社がある。高野山の寺領に組み入れられた歴史があり、現在も高野山への献上米が作られている。そのためか、地区内にはほとんど耕作放棄地が見られず、美しい農村景観を見せている。

さて、この天野地区には、総戸数の1割に当たる20世帯の地区外からの移住者が暮らしている。その受け入れ方がユニークである。『田舎ぐらしの7ヶ条』を掲げ、それを理解した上で来て欲しいというのである。7ヶ条の序文には次のように記されている。

「私たちは、天野に移り住んでくれる方々を大きな期待をもって出迎えたいと考えています。しかし、自然景観や雰囲気だけで『天野』に住んでもらうことにも一抹の不安を感じます。こんなはずではなかったのにという後悔だけは回避したいのです。そこで、天野を好きな皆さんに、もっと天野を好きになってもらえるよう、私達が抱えているいろいろな条件を包み隠さず知ってもらった上で、天野の住民としてお迎えしたい、『田舎ぐらしの7ヶ条』を作ってみました。ご理解ください。」。そして以下の7ヶ条を掲げ、「この7ヶ条を理解できれば、あなたは田舎ぐらしの達人です。」と結ばれている。

第1条 現金は要る
第2条 プライバシーは無いと思え
第3条 農業では食えないと思え
第4条 参加を求められる地域行事の多さを覚悟せよ
第5条 運転免許は必要だ
第6条 自分の今までの価値観は通用しないと思え
第7条 自然は時として大きな脅威になる

条文の内容はウイットに富み秀逸だが、紙面の都合で紹介できないのが残念である。

さて、条文の内容を読めば、必ずしも地域への全面的な同化を求めている訳ではないことがわかる。しかし、私には3条と6条が少し気になっている。これで地域に新しい風が吹くのか、少し軋みがあるくらいの方が・・・などと考えてしまうのであるが、いかがであろうか。