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「婚活」支援

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年10月27日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子 (第3018号・平成29年10月23日)

未婚者が増えている。国勢調査によれば、50歳で一度も結婚したことのない人の割合を表す生涯未婚率は、男性23.37%、女性14.06%(いずれも2015年)に達したという。「子どもを産むにはまず結婚」という考え方が浸透する日本社会で出生数を増やすには、未婚率の低下に向けた対応が一つの鍵となる。行政による「婚活」支援は、そのための出会いを創出する事業と位置づけられる。

2013年に内閣府が「婚活」支援の提案を行った際には、「コンパに税金を投入するのか」として、財政支出の無駄が指摘された。だが、今や「婚活」支援は地方創生事業の一つともなり、公費を投入して出会いの場を創出する取組みが各地で行われている。

「婚活」支援を担当する自治体職員に話を聞くと、「婚活」イベントから成婚に結びつくことは稀だという。そもそも「婚活」と銘打ったイベントに参加すること自体、恥ずかしいと感じる若年世代も多い。参加者に豪華景品を用意する自治体もあるというが、こうした場当たり的な対応で、家庭を構築する関係が取り結ばれるかは疑問である。

内閣府の調査によれば、結婚しない理由として、男性は「経済的余裕がない」、女性は「自由気ままな生活を失いたくない」という回答割合が高い。実際に有配偶者比率を所得階層別にみると、年収の低い男性と、年収の高い女性の層で未婚率が高い傾向にあるという。さすれば、男性の婚姻率を上げるには、雇用機会創出と安定収入の確保が必要であり、女性の婚姻率を上げるには、結婚して家庭を持つことの楽しみを伝えることが有効ということかもしれない。

核家族化とともに、職場と住まいの分離が進み、家族や個人はマイホームという名の小さい箱に閉じ込められ、子育ての孤立化ももたらされている。仕事であれ、暮らしであれ、限られた人間関係のなかだけで生活が回るようになっており、そのことが未婚率上昇に関わっているようにも思える。

「婚活」イベントは新たな知り合いをつくるきっかけにはなるだろう。だがそれだけでは続かない。大切なことは、日々の暮らしのなかで、他者と幅広く知り合い、安心できる関係を取り結ぶことのできる機会が仕事や暮らしのなかに育まれていることである。赤の他人であった男女が生活を共にする環境の構築には、最初の出会いも大切だが、むしろ、二人の関係を見守り、支えあえる周囲との関係も無視できない。地域のなかで人々が家庭を持ち、楽しく暮らしている姿が見えることも大切である。

若者が気軽に集える居場所があり、継続的に関係を育める環境が構築されることこそが、結果的に「婚活」の支援に繋がるのではないだろうか。