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いまなぜ「関係人口」か?

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年10月20日

明治大学教授 小田切 徳美(第3017号・平成29年10月16日)

「関係人口」という言葉が世の中に出回り始めている。

この関係人口とは、一言で言えば、「地域に対して、交流(観光)人口より深く関わり、定住人口より浅い関わりを持つ人々」である。以前は、このような人々を「交流人口」と呼んでいたが、現在はこの言葉が「観光人口」の意味で使われることが多くなり、また交流人口自体にも変化が見られることから、あえてこうした新しい概念が作られたのであろう。

それではなぜ、この関係人口がいま話題となっているのであろうか。そこには、2つの要因がある。

ひとつは、地元自治体をはじめとする移住政策の担当者が、「移住する」か「移住しない」かという二元論で都市住民を見がちであったことの反省である。この中間には、「移住せずに地域を応援する」という選択肢があり、まさにこれが関係人口である。それに気がつけば、いきなり無関心層に移住を呼びかけるよりも、まずは関係人口を対象とし、さらに無関心層から関係人口を作るような階段を作る必要性が認識できる。筆者は、これを「関わりの階段」と呼んでいるが、さらに細かく、無関心→地域の産品購入→地域への寄付(ふるさと納税等)→頻繁な訪問(リピーター)→地域でのボランティア活動→準定住(二地域居住)→定住という流れなどが想定される。しかし、この階段の刻み方やその順番はおそらくかなりバリエーションがあろう。

もうひとつの要因は、都市住民、特に若者の多様化である。直前に「関わりの階段」を指摘したが、実はこの階段を登らずに、一箇所にとどまり、農山漁村を応援する若者もいる。彼らにとって、地域への関わりとは、必ずしもそれを深める方向だけに動くものではない。若者ライフスタイルの多様化の中で、その関わりが多彩となっているのである。そして、そのような選択肢に気がついた若者は、最近急速に増え、自分自身のやり方で農山漁村に関わりを持とうとしているように思われる。関係人口を唱えた一人に人気雑誌「ソトコト」編集長の指出一正氏がいるが、読者の若者と日常的に接触するために氏はそれにいち早く気がついたのではないだろうか。

このように考えると、関係人口は、単に移住促進という短期的な対象のみならず、「都市と農村の共生」という新しい社会を展望するキーパーソンと考えられる。都市と農村を繋ぐ位置にいるからである。あらためて彼らの声に耳を傾けたい。