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山間地の地域力

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年5月15日

民俗研究家 結城 登美雄(第2999号・平成29年5月15日)

米価の下落、担い手の高齢化、耕作放棄地の増大など厳しさを増す中山間地農業を、ともに生き暮らす地域の人々の理解と協力で支えていけないか―。そんな思いから始まった地域支援型農業「鳴子の米プロジェクト」の活動が今年で12年目をむかえた。この活動は大規模化一辺倒の農政に抗して、国に頼らず地域の作り手と食べ手が直接に支え合おうという試みでもある。そのために寒冷な山間地でも逞しく育つ品種を試験場でさがしてもらい、生産者には一俵18,000円を保証し、消費者には一俵24,000円で買い支えてもらおうという市場原理とは正反対の、地域の食と農を守る運動でもある。12年前、山間地の3戸の農家で各10aの実験的作付けから始まったこの米づくりは、現在では23戸、17haまで広がり、毎年900人から1,000俵以上の予約をとりつけるまでになっている。

もちろん活動は試行錯誤の連続だった。しかし生産者たちは「おいしいお米待ってるよ」の予約者の声に励まされ、老体にムチ打って頑張ってきた。作付け品種は糯米と粳米の良さを兼ね備えた低アミロース米(「ゆきむすび」と名付けられた)。冷めてもおいしいのでおむすびに最適といわれた。しかしほとんどの米は予約者に直接配送されるので、地元では食べられないと不満がくすぶっていた。それに応えるため土・日曜だけの営業だが、農家の女性たちによるおむすび食堂「むすびや」を開店させたところ、地元はもちろん観光客に大好評だった。しかし東日本大震災で店舗が被災し、長い間休業を余儀なくされていた。それがようやく先月末に元の店舗から10㎞山奥にある中山平地区に復活再生した。

復活した新「むすびや」は単におむすびを作り売るだけではなく、地域内外の人々とのコミュニティ拠点の役割はもちろん、山間地が抱える様々な地域課題(高齢者の見守りや買物代行など)に対応すべく、新たなプランと体制づくりをすすめているところである。