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「旅」、そして「旅行」の効用を考える

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年4月24日

公益財団法人日本交通公社理事 筑波大学大学院客員教授  梅川 智也
(第2998号・平成29年4月24日)

日本人の「旅」の歴史は長い。遣隋使、遣唐使の時代から、進んだ外国の技術や制度を学んだり、交易、外交などを目的に海を渡った。古代から中世にかけて盛んに修験や巡礼が行われた「熊野詣」。そして、庶民の旅の原点と言われる「伊勢参り」は、江戸時代には約60年に一度「御陰参り(おかげまいり)」と言われるブームが起こるほど日本人の生活に浸透し、最新のファッション(伊勢型紙等)や最新の農具(唐箕(とうみ)等)、農作業の時期を決めるための農業歴(伊勢暦)などが全国の農村社会に大きな影響を与えた。

「旅」の語源は諸説あるが、かつての旅は食料や寝床を毎日その場で調達しなければならず、道沿いの民家に物乞いをする際の「給(た)べ」(「給(たま)ふ」の謙譲語)や人から火を借りて食い繋いだことから「他火(たび)」から来ているのではないかとも言われている。

我々は人づくりをはじめ「旅」の持つ多面的な効用や「旅」という言葉の持つ情緒的な響きに期待するあまり、昭和が生んだ庶民の「新文化」としての「旅行」を軽んじてこなかったか・・。かつてベストセラーとなった『旅行ノススメ』(中公新書)の著者である白幡洋三郎氏によれば、“その背景に悲惨なことや苦労といった、いろんな精神的なものを背負っているときに、人は「旅」と言う。つまり、苦行であると。そうして無用な苦労や危険をできるだけ取り除いてできあがったものが「旅行」なんですね。”と。

白幡氏は「旅行ノススメ」は「教養のススメ」であり、新しい時代の生き方の宣言として旅行を捉え直すことを主張している。さらに混迷を深める平成からさらに次の時代に、我々一人ひとりが「旅行」の効用を改めて考え直してみることは、あながち的外れとはいえない。今、話題となっている「働き方改革」にも通じる価値ある試みではないだろうか。