エッセイスト・画家 玉村 豊男 (第2647号・平成20年7月21日)
フランスでは、大きな都市はもちろん、地方のかなり小さな町へ行っても、中心の広場に近いようなわかりやすい場所に、サンディカ・ディニシアチブの窓口がある。訳しにくい言葉だが、日本の辞書では「観光宣伝協会」と訳されている、要するに観光に関するよろず案内所である。Sという字が大きく掲げられたその建物へ行けば、誰でも町の地図や観光資料がもらえ、必要ならホテルや民宿の紹介もしてくれるし、困ったときの相談にも乗ってくれる。だから新しい町に着くと、旅行者はまずS印のある建物を探すのだ。
私もずいぶんお世話になったが、この組織がどのように運営されているのか、まだ調べたことがない。政府の観光局と連動しているとすれば公営なのか、窓口にいるのは地元の人だが人材はボランティアなのか。見たところは、とくに小さな町の場合、住民が手弁当でやっているような雰囲気にも見える。
いま観光立国をめざす日本では、どの自治体も観光の振興策を練っているようである。私もときどき、そうした担当の方から相談を受けることがあるのだが、そのときはかならず、サンディカ・ディニシアチブの話を持ち出すことにしている。
もちろん大きな観光地なら案内所もあるだろうが、とくに有名な観光対象がないふつうの町村でも、旅行者や観光客に対するきめの細かい対応ができれば、訪ねてくる人も増えるだろう。地図がほしければ役場の観光課まで行きなさい、ではサービスにならない。だから、フランスにはこういう組織があるのですが、一度その運営のしかたを調べてみてはどうですか。それこそ視察旅行にでも行って、日本の、おたくの地域に合ったかたちに応用して、同じようなサービスをはじめたらどうですか。
私はこれまで何人もの観光行政に携わる自治体の職員にこう言ってきたが、まだ、実現しようという計画を聞いたこともなければ、調べに行ったという話も聞いたことがない。この制度は、日本には根づかないのだろうか。