エッセイスト・画家 玉村 豊男 (第2573号・平成18年9月11日)
Iターン、Uターンなど、都会から農村に移住を希望する人は多く、近年ますますその数が増加している。一方で遊休荒廃農地の面積も増えるばかりで、両者をなんとかマッチさせようとして行政もさまざまなアプローチを試みている。が、いまのところ、その取組みはさしたる効果を挙げていない、というのが実情だろう。
一足飛びに都会から田舎へ移住するのは難しいから、何度か現地に滞在して、田舎の事情を理解し、土地の人との交流を深めた上で、決断ができたら移住する、といういわゆる交流居住というやりかたは現実的で賢い方法だと思うのだが、実際には、田舎にはそうした希望者が泊まれる家が少ない、という現実が隘路になっている。
既存の民宿が近くにあれば別だが、ふつうの農村にそれは望めない。農家は広いから客が泊まるスペースはあるが、知らない人を泊めるのは抵抗がある。誰も使わなくなった家はあるが、古過ぎて使えない。あるいは、使えることは使えるが先祖代々の遺品やガラクタがいっぱい散らかっているので、使えるように整理するには手間がかかる……。
理由はさまざまだが、閉ざされた地域に暮らしてきた人びとの心理的な抵抗感と、居住環境に関する物理的な条件が、スムーズな交流居住を妨げているように思われる。
田舎の疲弊、高齢化による村落そのものの存続の危機には、深刻なものがある。いずれはそうした不可避的な要請によって人びとの心理も変化してくるものと思われるが、物理的な条件が整えば心理的な変化も促されるはずである。古い家の改造や整理を、なんらかの方法で公共的に助けるような施策というのは、考えられないだろうか。
地域の行政がうまくそれを後押しすることができれば、都会から田舎への移住人口は近い将来にかならず顕著な増加を示すことだろう。