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小さなワイナリーが目指すもの

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年2月3日

エッセイスト・画家 玉村 豊男 (第2426号・平成15年2月3日)

信州の小さな里山の斜面に一町歩あまりの農地を買ったのが12年前。多くの人の協力を得て農園は順調に発展し、移住と同時に植えたブドウの樹からは上質のワインができるようになった。これを機会に、さらにぶどう畑を拡大し、これまで近くのワイン工場に委託していた醸造作業を、自前のワイナリーでやりたいと思うようになり、現在その準備を進めている。

日本の酒税法では、果実酒の製造免許を新規に取得するには最低六千リットルの生産が義務づけられている。ワインのボトルにして8,000本である。それだけの製造設備を整えるには相当な額の出費が必要だが、農業関係の制度融資と、友人知人からファンドを募るなどして、なんとか個人で小さなワイナリーを立ち上げられそうな目処がついた。

生産コストや初期投資を考えると、ワイン造りは決して儲かる商売ではない……どころか、安価な製品を大量に生産する以外には利益を見込むことのできないビジネスである、といってもいいくらいなのだが、しかし、損益の計算を離れてみれば、ワイナリーという存在は、半世紀以上も生きるブドウの樹と、その風土からしか生まれないワインという自然の恵みを中心にして、多くの人々が集い、働き、楽しむことのできる、永続的な農業活動によって地域の活性化を促すきわめて有効な仕掛けである。

他のどの土地にもない、そこにだけ存在する、そこへ行かなければ出会えない、という、その地域に独自の価値。それを見つけることができれば、どんなに国際的な競争が激しくても、たとえ人々の価値観や流行が変化しても、その地域は変わらぬペースで生きていけるに違いない。

私は、ワイナリーを作り、そこを中心にさまざまの情報を発信することで、なんとか日本のひとつの小さな地域が自活して行く方法を模索したいと願っている。