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都市と村の交流地点「なんもく大学」ネット上に開校 ~高齢化率日本一の群馬・南牧村に~

印刷用ページを表示する 掲載日:2017年7月31日

島根県立大学名誉教授 田嶋 義介(第3008号・平成29年7月31日)

首都圏から群馬県南西部の長野県境にある高齢化率日本一の南牧村に向かう若い人の姿が最近、毎月のように見られるようになった。若者らが昨年5月に「なんもく大学」をフェイスブック上に開校したからだ。村内に借りた古民家を改修、10人が泊まれるキャンパスもある。大学講師は村民たちだ。

今年1月授業の「メープルシロップ採集」には12人の学生が参加、社会人が9人、残りは大学生と高校生だった。長谷川村長が選んだ村内のカエデの木にドリルで穴を明け、そこにパイプを入れ、ペットボトルに樹液を貯めた。3月授業は樹液を回収し、煮詰めてシロップにした。これには、社会人6人とその娘さん1人、大学生1人の8人が参加。シロップはわずかしか取れず、パンにぬって食べた。村の特産品にとの期待もあったが、少量で商品化は無理のようだ。

大学事務局長の古川拓慶大4年生(23)によると、開校後の昨年の授業は、古民家活用、石割りワークショップ、川遊びと保育園の体験学習誘致、ツリーハウス見学と山登り、古民家改修・薪ストーブ設置、村長と山の見学の6件。昨年1年間の開催イベントは、村のほしいも加工体験会、東京都内での南牧村の食材を味わう会、村のカタクリ祭の手伝い、村の農業祭手伝いと大学のサークル合宿誘致など7件。毎月のように授業とイベントをしている。大学の入会者は約260人。学生登録をしているのは約60人という。

南牧村は3村が合併して誕生した1955年には国勢調査で人口10,573人だったが、 2015年には1,979人と8割も減った過疎地。この時の65歳以上は日本一の60.5%を占めた。民間シンクタンク「日本創成会議」が2014 年に発表した消滅可能性自治体の中で、最もその可能性が高い、とされた。それだけに、村幹部は「カエデの木があることは知っていても、シロップを作ろうなんて考えもしなかった。少しずつだが、住民に気づきを生んでいる」と村の良さの再発見を喜んでいる。

「なんもく大学」はどうして生まれたのか。古川君によると、文科省大臣補佐官をした鈴木寛氏が、東大と慶大の教授でそのゼミと、2012年にAIなどの技術革新を踏まえて社会起業家を育むことを狙い社会人を対象に設けた社会創発塾、の3つのグループに集まる若い人たちが設立した。仲間の1人が新聞記者で南牧村を取材、新聞に連載したのが発端。記者は村の豊かな自然、人々の生きる上での力強さ、温かさなどを知り、都会人が忘れている「生きる力」をもっと広めたい、と考え、鈴木氏のグループを中心にメンバーを募った結果だ、という。村のふるさと再生仕掛け人の神戸とみ子さん夫妻らが協力した。