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「共有」と「共通」

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年12月20日

農村工学研究所研究員 坂本 誠 (第2743号・平成22年12月20日)

地域づくり活動に携わる方々からよく聞くのが、「地域がなかなかまとまらない」という悩みである。しかし、そもそも、人々の考えがそう簡単に揃うはずはない。むしろ多種多様の意見があることこそが地域の強さであり、それらを1つに集約しようとするのは、かえって地域力を弱めてしまうのではないだろうか。

異論反論を発する人も、地域に対する思いはひときわ強いはず。ただ、地域を何とかしたいという思いから派生する行動が、経済的な活性化を目指して特産品開発を志す者、住民生活の向上を目指してコミュニティバスや子育て支援に着目する者・・・といったように異なるだけのことである。

まず、悩みを解決するための糸口として、「共有」と「共通」は違うということを認識してほしい。「共有」とはベクトル―すなわち出発点と方向性を1つにすること、「共通」とは出発点と方向性のみならず、アプローチまで1つにすることである。「共有」は思いを1つにすること、「共通」は行動を1つにすること、と言い換えることもできる。このうち、地域づくりに必要なのは、思いを1つにすること―すなわち「共有」である。行動まで1つにする―すなわち「共通」まで求める必要はない。 

そして、悩みの解決に向けた具体的な行動として、手始めに、地域に対する思い、地域の目指すべき方向性を徹底的に「共有」してほしい。「地域がまとまらない」という悩みの原因は、実はこのプロセスが十分でない場合が多い。このまま何もせず座視した場合に予想される地域の将来、目指したい地域の将来像を突き詰めていけば、両者のギャップから自ずと地域の抱える問題点、地域の目指すべき方向性が見えてくるはずである。  

こうして問題意識と目指す方向性を確認した後は実行段階に移ることになるが、この段階で必要なのは、各々が、何を狙いとして、どういう行動をとっているのか、互いの情報を「共有」することである。なにも足並みを揃えて行動する(行動を「共通」させる)必要はない。大事なのは、相互の行動やアプローチが、どう違うのか、なぜ違うのかを理解することである。

以上のように、根っこの部分(問題意識と目指す方向性)の「共有」、互いの行動に関する情報の「共有」―2つの「共有」が実行できていれば、少なくとも、取り返しのつかない分裂が起こる心配はないだろう。