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都市と農山村を結ぶ「人」に光を

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年11月15日更新

農村工学研究所研究員 坂本 誠 (第2740号・平成22年11月15日)

人口減・高齢化に悩む農山村の新たな担い手として、都市に住む若者に期待が集まりつつある。総務省の「地域おこし協力隊」や農水省の「田舎で働き隊」など、都市の若者を農山村に派遣するしくみも整備されつつある。

こうした動きを反映してか、一時、私の勤める研究所に、数年前に開発したあるシステムへの問い合わせが相次いだ。それは、援農ボランティアと受入農家が携帯電話のインターネット通信機能を介して連絡を取り合えるシステム。IT技術の活用による援農ボランティア派遣の円滑化を目指したものである。ところが、実は当システムの開発により判明したのは、システムを整備するだけで情報が集まり、流れるわけではないこと。すなわち、情報を足で稼いで集める「人」が必要だということだった。

鳥取県に、学生人材バンクというNPO法人がある。8年前に当時の鳥取大学生が立ち上げた組織で、大学生を農山村にボランティア派遣する活動を行っている。現在はNPO法人となり、代表を含め7名の若者が専従スタッフとして勤務している。

情報発信や連絡調整は、主にネット上の情報共有システムを通じて行うが、上述のシステムと異なるのは、県内の人口減・高齢化の進む集落にスタッフが足繁く通い、住民と密に付き合いながら受け入れニーズを収集している点である。だから、ネット上のシステムには生の情報が集まり、流れる。もちろん、集落に見ず知らずの若者が入るとなれば、さまざまな問題が発生する。若者側、集落側、双方へのケアも、彼らの仕事である。

一方で、彼らの活動は、継続性の点で常に課題を抱えているのもまた事実である。最大の課題は、活動の経済的基盤の確保である。ボランティア派遣事業は県の支援を受けてはいるものの、職員が十分な生計を立てるには厳しい金額しか支払われておらず、支援の永続性の保証もない。かといって、外部資金に頼らず自立運営できるような性質の事業ではない。人口減・高齢化への対策には、次世代育成への対応が不可欠だが、対策に携わる者自身が、次世代を育成する経済的余裕をもてないという矛盾が、ここにはある。

彼らのような都市と農山村のコーディネーターに、社会的認知を与え、経済的な基盤を確保するしくみづくりが、いま求められているのではないだろうか。