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国籍法の「属人主義」と人口の自然減

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年4月22日

東京大学名誉教授  大森 彌(第2838号・平成25年4月22日)

2013年3月、国立社会保障・人口問題研究所は、27年後の2040年にはすべての都道府県で2010年より人口が減少するとともに、65歳以上の高齢者の割合も30%を超え、 全国で人口減少と少子高齢化が進むとした推計をまとめた。市区町村別では、全体の95%に当たる1603の自治体が2010年の人口を下回り、2割以上人口が減少する自治体が70%に 上るとしている。人口の自然減をどう考え、対処するかは、わが国の最重要問題である。 

国籍法は、出生による国籍の取得に関して、子は、①出生の時に父又は母が日本国民であるとき、②出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき、 ③日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき、「日本国民とする」と規定している。日本国民でない者(「外国人」)は帰化によって 日本国籍を取得することができるが、法務大臣による許可を得なければならない。日本社会は、基本的に、日本人である両親から生まれた子どもが次世代を成していく社会であると いってよい。日本国籍取得に関して原則として父母両系血統主義(「属人主義」)を採用しているからである。 

しかも、日本では出産は結婚と強く結びついている。同棲関係で生まれた子どもを社会が育てる発想は極めて弱い。結婚すれば、平均して子どもを2人は産んでいる。 決め手は結婚の成否である。若い男女が結婚しなければ、人口の縮小は必至である。結婚が自己決定であれば、結婚は良きもの、望ましきものであることを強調し、結婚して子どもを 産んだ夫婦を支援・激励する以外にない。それが奏功しなければ、人口の自然減は終わらない。出生による国籍取得に関する「属人主義」を、例えばアメリカ合衆国のように、 その領土内で出生した子どもは、その両親が外国人であっても市民権(国籍所得)を認める「属地主義」へ変更できるだろうか。それは本格的な多民族社会への転換になる 可能性がある。日本人は今、岐路に立っているのかもしれない。