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都市と農山村の共生―「骨太の方針」異聞

印刷用ページを表示する 掲載日:2001年10月8日

千葉大学教授・東京大学名誉教授 大森 彌 (第2372号・平成13年10月8日)

政府の経済財政諮問会議は、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」の素案を発表したのは2001年6月11日であり、成案を閣議決定したのは6月26日である。この間、関係者間で決着に向けて猛烈な折衝が行なわれたはずである。

全国の町村にとって見過ごすことができなかったのは、素案の段階では、構造改革7つの改革プログラムの「(6)地方自立・活性化プログラム」のなかに、都市と農山漁村の共生という一語がなかったことである。その末尾は「意欲と能力のある経営体に施策を集中する等により農林水産業の構造改革を推進することが重要である。」で結ばれていた。これが、停滞する産業にかわり新しい成長産業に経済資源を流していく構造改革の意味であろうが、閣議決定版では、この後に、「また、地方の活性化のために、都市と農山漁村の共生と対流、観光交流、おいしい水、きれいな空気に囲まれた豊かな生活空間の確保を通じ「美しい日本」の維持、創造を図ることが重要である。」という一文が加わった。

この一文は、重要である。「都市と農山漁村の共生」とは、農山漁村の都市とは異なった価値の認識・尊重を、また、あまり聞かない「対流」とは農山漁村から都市への一方的な人口移動ではなく、都市から農山漁村へのUターン・Iターンの流れの重視を意味している。

気になるのは、交流を観光と結び付けている発想である。今では、「観光地」とは、人生で1度行ったら2度と行かなくてよいところである。一時豪華主義の観光旅行もあろうが、グリーン・ツーリズム、エコ・ツーリズム、ブルー・ツーリズムの時代である。交流は行きずりとは違い、出会いであり、相互に影響を与えあうことである。ここに経済資源を流すべきである。自然の豊かな生活空間の確保なしに「美しい日本」の創造がないことも重要な指摘である。このような考え方を揺ぎない国民的合意とすべきである。