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スポーツと地域づくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2000年10月16日

千葉大学教授・東京大学名誉教授 大森 彌 (第2332号・平成12年10月16日)

わが国のスポーツは、これまで学校と企業に閉じ込められてきたといっても過言ではない。企業はスポーツを広告塔として使い、学校は教育のためにスポーツを管理してきた。この考え方と政策に一大変化が起こり始めた。それは、スポーツを地域と住民に開放する流れである。ようやくスポーツ「後進」国にも新しい時代がやってくる。遅きに失した感があるが、文部省の保健体育審議会が打ち出した「スポーツ振興基本計画の在り方について」(平成12年8月)は、新たな政策展開を十分に予感させる内容である。町村長さんは是非一読してほしい。この計画を実現していけば、身近な地域ごとに専門のインストラクター(これまでの体育指導委員だけでなく有給の有資格指導員)のいる「スポーツ・クラブ」を組織し、クラブ・ハウスを整備していくことになる。スポーツは、われわれ一人一人がよりよい人生を享受するための身体表現(文化)であり、その実践が基本的権利であることは国際的常識であるが、わが国ではあまりにもスポーツを手段化してきた。

私は、スポーツを地域自治の一環として位置づけるのを契機に、義務教育課程における体育科目や関連課外活動を徐々に廃止していき、地域に任せたらどうかと考える。これがスポーツを学校から解放する最も効果的な手法ではないか。学校でスポーツを義務として教えるという考え方を抜本的に見直したらどうか。その方向に向かって、まず、スポーツ施策の担当を教育委員会からできるだけ離し、総合的な地域づくりの視点から直接首長の下で施策を練り条件整備を図っていく道をさぐってほしい。このすその広いスポーツ文化から世界に通用するアスリートを生み出していきたい。そのためには早急に飛騨御岳高原のような高地にナショナル・トレーニング・センターを建設し、先進7カ国中、こうしたナショナル・センターをもたない唯一の国という「後進性」も克服していきたい。