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幸せを生みだす市民的経済

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年6月20日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章 (第2963号・平成28年6月20日)

ぼくが共同代表を務めるアジア太平洋資料センター(PARC)では昨年から、「ニューエコノミクス研究会」を行っている。市民の手で、 既存の経済とは異なる仕組みをつくるための理論や実践を学ぶことが目的である。 

前回は「イタリア市民的経済論の挑戦」というタイトルで、中野佳裕さん(明治学院大学国際平和研究所研究員)が報告した。市民的経済では、社会全体の幸せの観点から経済を考える。 彼は18世紀の作家・哲学者・経済学者のアントニオ・ジェノベシを紹介しつつ、公共の信頼が経済発展の真の条件であると述べた。

ここでいう幸せは、happinessとは異なる。happinessはto happenに由来し、刺激を受けて一時的快楽が増加する状態を指す。一方、市民的経済では幸せを「関係性に基づく概念」と捉える。 それは生の成熟や開花であり、自分の生き方を通して社会全体も幸せになっていくことで持続する満足感だと言う。 

資本主義経済のもとで、こうした市民的経済は理想にすぎないと考える人が多いかもしれない。でも、ぼくはそう思わない。いま各地に広がりつつある社会的企業はその現れだろう。 社会的企業の活動領域は、福祉・環境・仕事づくりなど多様だ。いずれもコミュニティを基盤とし、制度(行政)と市場(ビジネス)の力をともに活用して社会問題を解決していく。 働く人たちの満足感(幸せ度)は概して高い。 

今年の春、東京電力福島第一発電所から約50キロに位置する二本松市東和で、友人の有機農家が農家民宿を始めた。目指すは「里山と都市をつなぐ体験交流」。棚田の学校、大豆な学校など、 春夏秋冬にわたって豊富な体験メニューを用意している。オープンセレモニーには集落の方々から東京の仲間までが訪れ、深夜まで会話と自産食材で作られた料理、地酒を楽しんだ。 翌朝はすぐ近くの里山で竹の子を掘り、畑でイチゴ狩り。この農家民宿もまた市民的経済の実践であり、農をフルに生かした社会的企業である。