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いのちをつなぐ本物の発展

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年11月28日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章 (第2781号・平成23年11月28日) 

昨年、手づくりのシンポジウムに呼ばれた福島県南会津町の「南会津ロハスな家とまちづくり協議会」から、素敵なパンフレットが送られてきた。中身は、今年7月に完成した「うつくしまロハスセンター」の施設概要と地域再生計画だ。

建物は地場産木材を活用し、在来工法を用い、化学物質を排除し、自然エネルギー(太陽光発電や木質バイオマス)を利用している。循環型地域経済をめざす拠点としての公民館モデル棟「結(ゆい)の家」や健康食糧モデル棟「育(はぐく)みの家」などもある。併設されている「あらかい健康市場」では、無農薬有機栽培・無添加調味料の玄米食が食べられる。

このセンターのポリシーは、「人と人、命あるもののつながりを大切にしたライフスタイルの再構築」。それは、都会で流行のオーガニックにとどまらない、本来の有機的な関係性の回復であり、深く共感する。

南会津町には、重度の化学物質過敏症患者が訪れて、源流の水や新鮮な空気と安全な食べものによって健康を回復したことがきっかけで、「あらかい健康キャンプ村」が2007年に誕生した。昨年度までにのべ7,000名近くが滞在し、利用率は90%を超える。しかも、約八割が日常生活を送れる程度まで回復したという。この健康キャンプ村の経験が、ロハスセンターの事業につながったのである。

本紙10月31日号で小田切徳美氏が指摘していたように、内発的発展論は「総論賛成・各論不在」となっている。そのなかでこの取り組みは、地域の豊かな自然環境と第一次産業に依拠した、持続可能な循環型社会を明確にめざしており、学ぶところが非常に多い。健康回復後に定住を希望するIターン者も増えているそうだ。

フランスの経済学者・哲学者のセルジュ・ラトゥーシュは「経済成長なき社会発展は可能か」と問題提起している。おカネの経済に基づいた成長とは異なる、いのちと暮らしをベースにした地域づくりこそ、いま求められる発展の方向性だろう。