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苦悩する有機農業者

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年8月8日

コモンズ代表・ジャーナリスト 大江 正章 (第2769号・平成23年8月8日) 

東日本大震災が発生してから4カ月以上が過ぎたが、ガレキの撤去も原発事故の収束も目途が立たない。なかでも、放射能汚染による農業者の苦悩は深い。それは、静岡県のお茶からのセシウムの検出や北関東・東関東の農産物の買い控えに顕著なように、広範囲にわたる。そして、環境や安全性に配慮してきた有機農業者ほど深刻な打撃を受けている。

放射能によって汚染されたのは作物や土だけではない。里山の落ち葉も土中のミミズや微生物も被曝した。自家製堆肥の原料が汚染され、長年かけて築きあげてきた地域循環型農業がズタズタにされたのである。ビニールハウス内の施設栽培野菜より露地栽培野菜の放射能数値が高いのは周知のとおりだ。稲わらからのセシウム検出は、自給飼料を重視してきた放牧畜産に壊滅的な打撃を与えた。

また、福島や東京から移住する消費者も少なくない。健康や食べものの安全性を重視する彼ら・彼女らは多くの場合、有機農産物を購入していた。有機農業者は貴重な消費者も失ったわけである。ぼくが茨城県で聞いた範囲では、消費者に宅配便などで野菜や米を届けている有機農業者たちは、平均して2割も解約されている。自然食品店やスーパーからは大抵、全面的に切られた。生活への影響は甚大である。

放射能の影響が子どもにより大きく現れることがはっきりしている以上、親が心配する気持ちは痛いほどわかる。しかし、有機農業がもっとも大切にしてきたのは作る人と食べる人との顔の見える関係性である。そこには、安全性や金銭を超えた、人と人との付き合いがあるはずだ。自らの責任ではない放射能汚染で一方的に関係性を解消されるのは、悲しすぎる。子どもには食べさせないとか、放射能を軽減するメニューや調理法を工夫するとか、何らかの対応があっていいのではないだろうか。

こうした苦悩を広げないためにも、国民の77%(朝日新聞調査、7月9・10日)が望む脱原発へ踏み出していきたい。