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地域を変えるバイオガスプラント

印刷用ページを表示する 掲載日:2016年8月8日

法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第2969号・平成28年8月8日)

北海道十勝平野北西部、平野が石狩山地に差し掛かろうとするあたりが鹿追町。近年、地域の価値を活かした新しい動きから目が離せない。農業の中心は酪農で、乳用牛は1万1千頭を超え、 牛乳販売額は97億5千万円(平成27年)、農業生産額の5割に近い。平成27年度は天候にも恵まれ、農業生産額は214億5千万円と史上最高となった。

十勝らしい農の風景に溶け込んだ農家レストランや農家民宿が高い評価を得て、町を訪れる人も増えている。然別湖周辺では、森の中をムササビのように飛ぶエアートリップや湖上でのカヌー、 結氷時の氷上露天風呂など、若い人たちに人気だ。馬に負担をかけず、80㎞、120㎞の長距離をいかに早く走りきるかというエンデュランス馬術大会の国内発祥の地であり、 ライディングパークや乗馬用トレッキングコースも設けられている。

そうしたなか課題が出てきた。市街地周辺での酪農による悪臭への苦情、景勝地へ向かう道路近くの牛舎のたい肥も景観を阻害する。そこで町が取り組んだのが国内最大級のバイオガスプラントだ。 年間3万tの家畜ふん尿を受け入れる他、家庭生ごみや浄化槽汚泥も原料となる。1日134tは日本最大の処理量。これらをメタン発酵させ発生したバイオガスで発電する。発電量は1日6千kWhで、 8割は北海道電力に売電する。バイオガスを取り出した後のふん尿は消化液となり圃場の肥料として散布する。

発電機から発生した余剰熱は蓄熱槽で貯蔵し、そのお湯をチョウザメ飼育施設やマンゴー栽培ハウスで活用している。チョウザメは食肉用、今後メスが成長すればキャビア生産が期待される。 マンゴーは夏に出荷したのでは沖縄や宮崎に到底かなわない。そこで専用のビニールハウスを設置し、夏と冬を逆転させる。夏は雪室から冷気を送り、 冬は地中に設置したパイプにプラントの温水を送り夏だと思わせて収穫する。両方とも夢のようだが、夢がなければ何も実現しない。今後が楽しみだ。こうした実績のもとに今年4月には、 瓜幕地区に約2.2倍の能力を持つ第2プラントが運用を始めた。

一見地味だが、議会改革も見逃せない。議会基本条例を制定し、住民との直接対話をすすめるまちなか会議の開催や、5人の住民で構成する第三者審議会で議員定数、報酬、政務活動費の評価も行っている。

地域の多様な可能性を拓く地方創生が各地で開花して欲しい。