法政大学名誉教授 岡崎 昌之(第2927号・平成27年7月20日)
国土地理院の地図に300万分の1「日本とその周辺」がある。見開きの新聞紙を一回り大きくした縦長のサイズで、右上の北方4島から左下の与那国島までが、紙面の対角線上にすっぽりと納まっている。 よくある市販の日本全図では、北海道から九州までを少しでも詳細に見せるため、奄美から琉球弧に至る南西諸島が切り取られ、紙面の片隅に押しやられて列島全体を俯瞰することができない。
この地図で、北方4島から八重山列島の端まで、物差しで測ると1メートルを少し超える。300万分の1なので、その距離は3千キロメートルを超えるということだ。 正確には最北端の択捉島から最西端の与那国島までは3,249キロメートルらしい(「日本全図」昭文社2014年)。
ミシュランといえばレストランなどの格付けガイドで有名だが、もともとはタイヤメーカーなので、さまざまなドライブ用の地図を発行している。その一つに同じ300万分の1のヨーロッパ全図がある。 広げると新聞見開き2枚分を越える。
「日本とその周辺」で測った1メートルの物差しを、このヨーロッパ全図に当てはめてみる。分かりやすいように、 ヨーロッパ大陸西端のポルトガルの首都リスボンに一端を置くと1メートル先はスウェーデンの首都ストックホルムを越える。調べてみるとリスボン~ストックホルムの飛行距離は2,970キロメートルである。 これを飛ぶ飛行機は、ポルトガル、スペイン、フランス、ベルギー、オランダ、ドイツ、デンマーク、スウェーデンの8ヵ国の上空を通過する。
毎年新しい講義がスタートするとき、黒板にこの二つの地図を張り出し、日本列島の3,000キロがいかに大きな空間であるかを説いてきた。九州から南に連なる南西諸島は小さい島嶼群で、 とるに足らないと思われるかもしれないが、そこには13市46町村が存在し、海洋環境の把握、領海管理という点でも重要な役割を果たしている。
狭い日本、小さな国土といった日本の国土に対する先入観を排し、集落ごとに長い歴史を有する日本の国土には、ヨーロッパ8ヵ国にも匹敵するほどの多様な歴史、文化が凝縮している。 それを将来に向けて、十分に活かすことこそが本来の地方創生に繋がる。