法政大学教授 岡崎 昌之(第2893号・平成26年9月22日)
福島県只見町は県西部、かつては只見川の水力発電開発で隆盛を誇ってきた。平成23年には水害の被害もあったが、今年はエコパークの指定も決まり、何とか明るい兆しを見出そうとしている。 町内の明和地区では平成25年に明和自治振興会を結成し、住民主体でまちづくりに取り組んでいる。地区は7つの集落からなり、空き家や耕作放棄地もあるが、古い曲屋が点在し、 閉校の小学校を活用した宿泊施設“森の分校ふざわ”の運営、不動明王を祀る旧家など、各集落の深い歴史を感じることができる。
振興会の事業として、今年7月から始まったのがお年寄りを対象にした買い物支援バスだ。県の補助を受け、お年寄りは年千円の登録費を払い、毎週火曜日の午前中に運行する。 バスは地区内の集落を回り、利用者は中心集落の商店で買い物をする。かつては各集落に商店があったが、生鮮食品店は中心部に1軒だけとなった。町外から移動販売も回ってきていたが、 信頼のおけないところもあった。
買物支援も目的だが、地元消費の拡大をしないと、1軒残った商店も無くなる恐れがある。商店でも店の前にお年寄りが休めるベンチを設置し、買い物用の手押し車も用意した。 買い物の手助け、荷物持ち、安全確保等のため、若い住民が添乗員として同乗する。いつもは孤立しがちのお年寄りだが、買物中やバスで移動中のお互いの会話が、大きな喜びになっている。
総務省の過疎集落調査(平成23年)でも、「空き家の増加」と「商店の閉鎖」は住民生活にとって最も大きな問題と指摘されている。第2次安倍内閣が発足し「地方創生」が重点施策となるようだ。 首相が本部長となって「まち・ひと・しごと創生本部」もスタートした。“まち”が決して都市のことだけを指すのではなく、広く“むら”をも含み、それぞれの“まち・むら”を構成する集落まで、 きちんと目配りされることが必要だ。紹介したような買い物支援事業や、空き家対策といった、高齢者や住民の暮らしを支える集落レベルの地道な取り組みが、日本の国土を維持し、 保全していることを忘れてはならない。