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豚を核に地域循環型農業

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年9月9日更新

法政大学教授 岡崎 昌之(第2853号・平成25年9月9日)

世界遺産の白神山地と津軽のシンボル岩木山から流れる三河川が町を潤し、日本海からのイカやヒラメなど多様な魚介類に恵まれているのが青森県西部の鰺ヶ沢町。

この町で地域循環型農業を追求しつつ、高品質の豚を生産しているのが長谷川自然牧場だ。葉タバコ栽培で農薬中毒を経験した長谷川夫妻は、自家飼料を使った養鶏に転換し、 卵も1個50円で売れるようになり、飼料用の作物に堆肥を必要とするため豚を導入することで、養豚も手掛けるようになった。

現在の飼育頭数は950頭で平均より小ぶりな養豚経営といえる。しかし豚にかける情熱は並外れている。濃厚飼料は使わず全て自家配合飼料。作れる飼料の量と豚の健康管理で飼育頭数も決まる。 通常は6ヶ月で出荷するが、ここでは10ヶ月かけてゆっくりと健康な豚を生産する。それだけに価格も生産者主導で決めることができ、通常の2倍から3倍する。

飼料に最も気を使う。自衛隊や学校、パン屋など津軽一円から収集する食糧残渣、大規模農場からの規格外農産物、籾殻燻炭、さらに白神のミネラルをたっぷり含んだ、鰺ヶ沢沖の海水を加え、 これに岩木山山麓の里山から集めた腐葉土を混ぜて発酵させる。そのため養豚場には珍しい倉庫のような飼料製造場があり、外にはジャガイモやパンの通函箱が高く積まれている。

長谷川自然牧場を訪れて最も驚くのはにおいだ。養豚場といえば強烈な臭いがつきものだが、ここでは殆ど気にならない。それには工夫がある。農家から籾殻を収集し、 各豚舎に設置した円形ストーブで燻炭にする。その際出る煙や木酢液を豚舎に導入、散布することで消毒、消臭が図られる。燻炭を飼料に混ぜて食べさせ糞の臭いも抑える。

牧場従業員10名の内2名は知的障害者で、長谷川さんたちは彼らの自立をも支援している。グリーンツーリズムにも取り組み、動物とのふれあいやソーセージづくりをとおして、 子供たちの食育にもかかわる。麻布獣医大学、法政大学など学生の研修も受け入れる。作業や食をとおして若い人たちは生き方をも再考する。

TPPが話題となり“農業”が注目を浴びているが、この牧場を見ていると、地域との連携があってはじめて“まともな農業”は成り立ち、“まともな農業”は教育や環境にも大きな影響を与えることがよく分かる。