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集落からの復興・集落への視点

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年7月11日更新

法政大学教授 岡崎 昌之(第2766号・平成23年7月11日)

東日本大震災発生から3か月以上もたってやっと「復興基本法」が成立した。被災地の苦悩や混乱からみて、遅きに失するとの感が強い。「復興構想会議」からも『復興への提言~悲惨のなかの希望~』が発表された。多方面にわたる提言となっていることは評価したい。ただ復興財源を基幹税増税で確保する点や水産業に企業参入の特区導入など、これも多々課題を抱えた内容となっている。

地域づくりの観点からも気になる点がある。被災地を5つの地域類型に分けて復興施策が提言されている。いずれもこの大震災を切っ掛けに、まち全体の高台移転、平地には産業基盤のみの立地で住居は高台移転、人口地盤によるかさ上げの上に住居建設といった提言が続く。被災地の多くの方々は、そうした山や高台を切り開いたり、人工地盤の上に建設されるニュータウンのような地域づくりを本当に希望しているのだろうか?

今回、津波の大きな被害を受けた岩手県三陸沿岸の町村は、その多くが、小さな湾の奥の狭小な平地に立地する数多くの集落から形成されている。太平洋に面した湾の一つ一つに集落があるといっていい。そこでは住居と生業の場が一体となり、それぞれが独自の祭りや伝統芸能を伝え、固有の生活習慣を持っていた。地先の海では工夫を凝らした多様な養殖や漁業が展開されてきた。

こうした集落を一網打尽に高台へ移転させ、漁業を集約化するといったこの提言の発想は、被災した住民の共感を呼ぶのであろうか?提言冒頭の「復興構想7原則」では「被災地域の復興なくして日本経済の再生はない」と述べている。復興を契機にした大規模開発事業を足場にして、日本経済の再生を図ろうとするようにも受け取れる。被災町村のこまごまとした集落の再生など復興の足かせになる、といった発想でないことだけは強く確認しておきたい。同じく原則で述べられた「地域・コミュニティ主体の復興を基本とする」ことに常に立ち返り、被災者と真摯に向き合った地域づくりが、早急に進捗し、「悲惨のなかの希望」につながるような道筋が一刻も早くつくことを願うばかりだ。